Music of Frontier

正直なところ、俺は忘れていたのだ。

最近、自分があんまり幸せで、順調で、人生が上手く行っていると勘違いしていた。

でも、それは俺にとって良いことだったのだ。

そのまま、自分の人生には今まで、悪いことなんて何もなかったのだと。

そう思い込んでいれば良かった。

少し前までの俺は、時折昔のことを思い出しては、胸が押し潰されそうになる苦しみを味わった。

まるで呪いのように、それは俺の奥深くに居座っていた。

それがどうだ。今では、昔のことなんてすっかり忘れて、今という目の前の現実を楽しんでいた。

毎日充実していて、幸せだった。

昔のことなんて、考える暇もないくらい忙しかった。

あんまり幸せで、楽しいことばかりで心を満たしていた。

そのせいで、俺は昔のことを思い出さなくなっていた。

まるで俺の人生には、悪いことなんて一つもなかったのだと錯覚するほどに。

でも…それはあくまで、錯覚なのだ。

現実は違う。俺の過去に、思い出したくもないような辛くて苦しいものがあったのだという事実は、いくら忘れようとしても、消えてはくれない。

そしてその現実は、思い出したかのように息を吹き返し。

また、俺に牙を剥いた。