Music of Frontier

俺にとって失態だったのは、そのプリンの一件を、ラジオで喋ってしまったことであった。

その日は、俺とエルーシアが担当だった。

いつもの質問コーナーに、こんな質問が寄せられた。

「えー、次の質問は…ペンネーム『パイン飴』さんからの質問ですね。『二人が今ハマってるものは何ですか?』です」

俺達が…今ハマってるもの?

結構範囲の広い質問だな。

「エル…。何かハマってるものあります?」

「そうだな~…。今はねー、ホラゲかな?yourtubeでホラゲの実況動画観るのにハマってる」

ホラゲだと?ホラーゲーム?

「そんなのあるんですか?俺、全然見たことないです」

「面白いから、今度見てみると良いよ」

「でも、怖いんじゃないんですか?」

画面にいきなり血まみれの女の人がバーン、と出てきたら、トラウマになるよ。

俺みたいなビビりには、ハードルが高いのでは?

「それが良いんじゃないかよ。怖くないホラゲなんてホラゲじゃないぜ」

「うぇぇ…?夜寝られなくなるのは勘弁ですよ…?」

独り暮らしなんだからね?怖くても助けてくれる人いないんだからね?

そういう危険性のあるものは、避けて生きていこう。

「…で、ルトリーヌが今ハマってるのは?何?」

あ、そうだ俺への質問も兼ねてるんだっけ。

「そうですね…。先日マネージャーさんが差し入れしてくれたプリンですかね」

言わずもがな、ユーリアナさんがくれたあのチョコプリンだ。

あれは良いものだ。大変良いものだ。

「あぁ、あれな」

「超美味かったですよ。俺もう、しばらくハマりそうです。ってかハマってます」

「ルトリーヌ、甘党なんだよな」

「超甘党ですよ、俺」

前世は砂糖だったんじゃないかと思うくらいには。

「おいおい~。甘党は良いけど、ボーカルがお菓子にハマるとか大丈夫かよ~。お腹ぷにぷにになるぞ~。ぷにぷに~」

エルーシアは、リスナーに見えてないのを良いことに、俺の腹をぷにぷにしてきた。

「え、ちょ、やめっ…。くすぐったいんで」

「ひっひっひ~。肉だ。肉よ、つけ~」

変な呪文唱えないで。肉をつけようとしないで。

セクハラ、セクハラだからそれ。

リスナーも困ってるでしょ、こんな会話を聞かされて。





…などと、このときは実に平和に、和やかにいつも通りのラジオ放送を行った。

このときは俺も、エルーシアのちょっとした冗談を笑い飛ばしていた。

しかし。