Music of Frontier

ライブの後は、休む間もなく『R&B』の事務所に戻って次の動画の打ち合わせが待っていた。

結局おにぎりを食べるのも忘れて、仕事に明け暮れ。

おうちに帰る頃にはすっかりお疲れモードで、食べ物を食べる気になどなれずそのままベッドにアボン。

そんな生活が続いていたある日のこと。



「…ルトリアさん、これ良かったらどうぞ」

「はい?」

事務所の方に出勤したその日、控え室で、ユーリアナさんが差し入れをくれた。

何かと思えば、それは美味しそうなチョコプリン。

わぁ。

「どうしたんですか?これ」

「最近帝都にオープンしたケーキ屋さんのプリンなんです。これが一番人気なんだそうですよ」

ケーキ屋なのにプリンが一番人気とは。

余程プリンに力を入れているようだな?賢い。

「ルトリアさんが甘いもの好きだって、ルクシーさんに聞いたものですから。買ってきました。良かったらどうぞ」

「本当ですか。ありがとうございます…!」

ユーリアナさん。あなたは神か。それとも仏か。

今なら時間もあるし、心行くまでプリンを食べられる。

「皆さんもどうぞ。たくさん買ってきたので」

「わーい。プリンだ~」

「ありがとうな、随分並んだだろうに」

エルーシアやミヤノも、嬉しそうにプリンを頂いていた。

「いえ、どうってことないですよ。これくらい」

にこっ、と微笑むユーリアナさん。天使。

マネージャーのお仕事に、「ボーカルが好きなプリンを買ってくる」なんて含まれていないだろうに。

なんて良い人なんだ。

そして、このプリンの美味しいこと。

「美味しい。長いルトリアプリン歴の中で1、2を争うほど美味しい…!」

「本当ですか!それは良かったです」

「何だよ、ルトリアプリン歴って…」

ぼそっ、と呟くルクシー。

長いぞ、俺のルトリアプリン歴は。

三歳くらいのときから刻まれてる歴史だから。

しかもこれはチョコプリン。プリンにチョコを混ぜるなんて、なんて憎いことをしてくれるのだろう。

黄金の組み合わせじゃないか。

「ヤバいですねこれ。ここ最近の人生の中で一番美味いですよ本当」

「そんなにですか?そこまで喜んでもらえたら…私も買ってきた甲斐があります」

最近ろくなもの食べてなかったから、余計に。

プリンのあま~い糖分が、身体に染みていくようだ。

「なら、この余ったプリンはルトリアさんにあげますね。どうぞ、食べてください」

そう言って、ユーリアナさんはまだ三つほど残っているプリンを、全部俺に渡した。

えっ。

「いえ、ユーリアナさんが買ってきたんだから、ユーリアナさんが食べてくださいよ。俺は良いので」

「でも、ルトリアさん、最近忙しくてあんまり食べてないことが多いじゃないですか。好物くらい、好きなように食べてください」

「え~…。それは嬉しいですけど…。でもそれだとユーリアナさんのぶんが」

なくなってしまうじゃないか。

確かにプリンは好きだし、このチョコプリンは最高に美味しいけれども。

人のものを奪ってまで食べたいとまでは思わない。当然だろう。

しかし、ユーリアナさんは。

「私は良いんです。ルトリアさんに喜んでもらえたら…私はそれで充分嬉しいですから」

きっぱりとそう言い、俺にプリンを譲ってくれた。

…なんてことだ。宝物をもらってしまった。