Music of Frontier

その人は、目をきらきらさせながら俺の手をぎゅっ、と包み込んだ。

男性だというのに、黒ずくめのメンズゴスロリ服。近くに寄ると、思わずクラッ、としてしまいそうな妖艶な香水の香り。

何より、その人が全身に纏う黒い翳りのようなものに、俺は惹き込まれてしまいそうになった。

この人…何処かで、見覚えが。

すると彼は、にっこりと笑ってこう言った。

「初めまして。あなたイケメンですね。俺のハーレムに入る気はありませんか?」

「えっ…」

後ろに並んでいた、彼の連れらしき男性が、ずるっ、とずっこけていた。

俺も負けじとぽかーん顔だった。

「は、ハーレム…?」

…って、何?

「俺の愛人にならないかってお誘いなんですけど」

!?

俺…何されるの?

「あっ…愛人って…。い、いえ…ごめんなさい。ちょっとそれはご遠慮させてください…」

この人のハーレムとやらが、何なのかは分からない。

でも、絶対近寄ったらいけないものだということは分かる。

一度入ったら、二度と出られない奴だよ。

そういうものは一生知らずに死んでいきたい。

「なぁんだ。残念」

心底残念そうに、彼は溜め息をついた。

「仕方ないですね。じゃ、俺これからもあなたのこと見てますから。あなたが何処でどんなことをしていても、俺はずっとあなたを見守ってますからね…?」

え?何それ。

みまもっ…え?何処から?

背筋がぞわっ、とした。

「…あ、ぇ…はい…。それは…どうも…」

俺もしかして、今すぐ逃げた方が良いのでは?

目をつけられちゃいけない人に目をつけられた気がする。

「それじゃ、お元気で…。また会いに来ますね?」

「は、はい…。ありがとうございます…」

うふふ、と笑って彼は俺の手を離した。

よ、良かった。

するとすかさず、後ろに並んでいた連れらしき人が。

「…済まん。あいつの連れなんだが…。奴は俺が首輪をつけて監視しておくから、心配しないでくれ」

大層申し訳なさそうに、俺に詫びた。

「あ、はい…」

是非とも、宜しくお願いします。

「いつも良い歌をありがとう。それじゃ」

焦ったようにそれだけ言って手を離し、彼は小走りで去っていった。

「いやぁ、ルルシー。良い体験でしたねぇ。イケメン見てると無意識にムラっと…」

「…この馬鹿!」

そんなやり取りが聞こえてきたが、俺はそのとき既に、次の女の子と握手の真っ最中だった。

…一体あの人達…何だったんだろうな…。

よく分からないけど…あまり、関わらない方が良いことだけは確かだ。