Music of Frontier

「あ、皆さんおはようございます…。スタッフの皆さんも、朝からお疲れ様です。そのスタッフの腕章、俺にもくれません?ベーシュさんの列整理、俺も手伝うんで」

「落ち着けルトリア。お前にそんな暇はない」

何だとルクシー。そんな暇はない、だと?

そんな暇しかないよ。

「どうせ俺と握手したい人なんて、一人か二人くらいのものですよ!良いですもん。その一人か二人と、二時間くらいずっと握手してますから!」

最早涙目であった。

こうなったら、こんな俺に握手を求めてきてくれた心優しいファンの為に、心行くまでファンサービスするもん。

一人につき二時間握手してあげるもん。

どうせ一人二人しかいないんだから。

「何を言ってるんだ…。心配しなくても、お前の列が一番の行列だよ。ほら、そろそろ行くぞ」

「ふぇ~ん…」

「情けない声を出すな」

行きたくはないが、仕方がない。

俺は涙を堪え、どうせ人来ないんだからやったってしょうがないのに、と思いながら両手をアルコール消毒して。

会場に入ると。

「うわっ、凄い人…。皆ミヤノに握手してもらいたくて必死ですね」

会場には、こちらが気圧されてしまうほどの大勢の人々が詰め寄せていた。

握手会チケットは即完売したと聞いていたが…これほどとは。

「ミヤノじゃなくてお前だっての」

「ふぇ?何を言ってるんですかルクシーは…」

「ほら、見てみろ。お前の列が一番の行列だよ」

「…?」

五つ並んだ、椅子と机。

それぞれの机の前に、ずらりと列が出来ていた。

皆、思い思い推しメンバーの列に並んでいるのだ。

どの列も行列になってるが、その中でも一際長い列になっているのが、ミヤノに違いない。

と、思ったら。

「…ふぇ?」

行列の先にある机には、「ルトリア・レイヴァース」の立て札。

…なんてことだ。

「な?分かったろ?」

「…」

…大変だ。

これは大変なことだよ。

「大変ですよルクシー!あの人達、皆騙されてる!入場入り口の列だと思って並んだら、実は列の先は女子化粧室だったみたいなオチのアレですよ!」

「…」

今すぐに、その列の先が誰なのかを教えなくちゃ。

皆間違えてるに違いない。

「…別に化粧室じゃないし、間違えてもないから。ほら、早く行け。皆お前を待ってるんだぞ」

「おかしい!皆さん!その列間違えてますよ!そこ化粧室!化粧室ですから!」

「化粧室じゃないから。いい加減にしろ」

ルクシーにぐいぐいと押され。

俺は、行列の先に着席させられた。