Music of Frontier

「ただでさえ『frontier』の恥さらしと言われてる俺が握手会なんかしたら、余計煽られるじゃないですか!どうするんです、俺だけ握手希望者0人だったら!『ルトリアさん、あなたには誰も希望者が現れないので、ベーシュさんの列整理、手伝ってもらえません?』とか言われたら、さすがの俺も心が折れますよ!心が!」

「落ち着けって。誰だよ?お前を『frontier』の恥さらしだなんて呼んでるのは。自称だろ」

自称だろうが他称だろうが、事実だ。

「冷静に考えてみてくださいよ!ただでさえ写真集に俺の需要はないのに、握手会って!この世の!何処に!俺と握手したい人間がいるんですか!」

「私はルトリアと握手したいよ?」

すっ、と手を差し出してくれるベーシュさん。

「えっ、そうなんですか?ありがとうございます…。俺で良ければいつでも」

「うん、ありがと」

ぎゅっ、と握手。

ベーシュさん、優しい。

いたよ。この世に。俺と握手したいって言ってくれる人。

一人だけいた。

「…でもベーシュさんはレアケースですよ!他にはいませんよきっと!俺の列だけ閑古鳥ですよ!」

「大丈夫だ、お前の列だけ五列くらいになるから」

「ぶっちゃけ『frontier』で一番人気なのって、ミヤーヌでもベアトリーヌでもなくて、ルトリーヌだからな」

「本人に全く自覚がないのが珠に傷だけどな」

ちょっと何言ってるの皆。頭大丈夫?

百歩譲って。いや、千歩くらい譲って。

「ルトリアと握手して『やっても良い』」と思ってくれる人は、多分いるだろう。

多少自惚れても良いのなら、少なからずそう思ってくれる人はいるだろう。

けれど、握手会で握手出来るのは、一人だけ。

一人だけなんだよ?

なら、一番握手したい人の列に並ぶのは当然のこと。

俺は、二番手や三番手、四番手にはなり得るかもしれない。

でも、ミヤノやベーシュさんを差し置いて、一番手になることは出来ない。

俺の列に並んでくれるってことは、その人、『frontier』の中で最推しはルトリア、ってことになるんだろ?

何処にそんな酔狂な人間がいるんだ。

「…いない。いませんよそんな人!やっぱり休む!熱出る!28日周期でお腹痛いから休みます!」

「それじゃ、発売日は皆さんスケジュール空けておいてくださいね。詳しい場所と時間は、また連絡します」

「嫌ぁぁぁ!ユーリアナさん話を聞いてぇぇぇ!」

「28日周期って…言い訳苦し過ぎだろ…」

「ルトリア、生理来るの?」

「本気にするなベーシュ。頭がおかしくなってるんだこいつは」

俺が、こんなに必死に嫌がってるのに。

あっさりと話をまとめられてしまった。

あれ?気のせいかな…。目から、汁が…。