Music of Frontier

俺の写真も、一通り撮影したのは良いけども。

改めて見てみたら、「やっぱりキモいから、ルトリアは除外しよう」なんて神展開にならないかな~と。

そんなことを考えていたら。

とんでもないものが、俺達全員に押し付けられた。






「はい、では皆さん、今度は五人全員での撮影になりますので、それぞれこちらに着替えてください」

「…」

にこやかなスタイリストさんが、ハンガーにかけられた服を差し出してきた。

さっきまでの俺なら、「あ、はい分かりました…」とそそくさと着替えただろうが。

今回ばかりは、そういう訳にはいかなかった。

…何これ?

「…ルクシー…。俺…俺の目、ちゃんと開いてます…?」

「…大丈夫だ。俺にも同じ現実が見えてる」

そうか。それなら安心だな。

更に、ミヤノとエルーシアも。

「これは…さすがに…」

「んじゃこれ!変な服!」

正常な反応だ。彼らにも俺と同じ現実が見えてる。

しかし、ベーシュさんだけは。

「…?」

皆何を躊躇ってるの?みたいな顔で、今すぐ着替えようとしている。

駄目だ。彼女は俺達とは違う世界にいるようだ。

あと、ここで着替えないで。あなたは女性なんだから、俺達のいないところで着替えてください。

「スタイリストさん…。どういうことなんですかこれは…」

俺は肩を震わせながら尋ねた。

あまりの激務に、スタイリストさんも血迷ったのかと思ったのだ。

しかし、スタイリストさんは正常だった。

彼女は申し訳なさそうな顔で苦笑いした。

…その服は、黒かった。

別に黒いだけなら良い。黒い服好きな人はいるだろう。

でも、このデザイン。

俺は詳しくないのだけど、これって所謂…ゴスロリ、って奴だよね?

男でゴスロリって、アリなの?

アリだろうとナシだろうと、目の前にあるこの服に変わりはない。

すんごいひらひらしてる。何て言うのかな…。中世の王子様って言うか…吸血鬼みたい。

これはコスプレなのでは…?

写真集でこんな服着るの?

すると、困惑する俺達に、スタイリストさんがこう説明してくれた。

「実は…今回この写真集の為に出資してくれた『R&B』の親会社に、ゴスロリブランド専門店を経営してる方がいて…。その人から直々に頼まれてるんです。『これ似合うと思うんで!写真集で『frontier』の皆さんに着させてあげてください。ついでにそれ差し上げます』とのことで…」

…そういうことか。

差し上げますって言われても。

正直、ノーセンキューだよ。

「しかし…そうなると断れないな。出資者直々の頼みとなると…」

「あぁ…」

ご機嫌を損ねたら、最悪の場合、「じゃあ写真集の話はなかったことに」ともなりかねない。

もしそんなことになれば、多くの人に迷惑をかけてしまう。

俺達が謝るだけでは済まない。

となると…素直に従う以外に道はない。

なんてことだ…。人間は…権力には勝てない生き物だと言うのか…。