Music of Frontier

ちょっと、落ち着いて。

状況を整理しよう。

「…ちょっと待ってください。ちょっと待ってください。ちょっと待ってくださいよ」

「うん。三回も言わなくても待つよ」

「…まさか…とは思いますけど。違ってたら謝りますよ?まさかですがその写真集…。俺も出るんですか?」

俺の心臓は、ばくんばくんと盛大な音を立てていた。

いやいやまさか。俺が写真集に出るなんて。

有り得んだろうそんなこと。だって想像してごらんよ。

美しい蝶がひらひら舞っている写真の中に、ゲジゲジみたいなグロ虫が一匹混じってたら、写真の全てが台無しだよ?

あ、ゲジゲジ好きな人ごめんなさい。

「出るに決まってるだろ。『frontier』の写真集なんだから、ミヤノとベーシュだけって訳にはいかない。お前も出るんだ」

「!?」

…ルクシー、あなた…血迷ったか。

「冗談ですよね?冗談ですよねユーリアナさん!俺は出なくて良いんですよね!?良いと言ってください!」

「え、いやそういう訳には…。ルトリアさんにも出てもらわないと」

なんてことだ。

夢でも見ているのか?俺は。

いや待て。分かった。

「…分かりましたよ!名前が出るってことでしょ?後ろの方にチラッと。ルトリア・レイヴァース監修、みたいな」

監修、してないけど。

ものの例え。

「いえ…写真が出ますよ。ルトリアさんの写真が」

「…指一本だけなら良いですよ」

「指一本って…。それじゃ誰の写真か分からないじゃないですか。顔が出ますよ。ガッツリと」

「…」

…出る?顔が?

…ガッツリと?

「…ルクシー…。俺は、写真集に顔を晒して…生きて世間を歩けるでしょうか…?」

「…大丈夫だ。お前はもう少し、自分の顔に自信を持て」

「俺なんか写真集に出して。一冊も売れなかったとしても責任取りませんからね!」

最早涙目であった。

それどころかクレーム来ても知らないから。「イケメン美女の写真集と聞いたから買ったのに、グロ虫写り込んでんだけど!」とか言われても、俺は責任取れないからな。

それで良いなら、好きなだけ写真でも何でも撮れば良いじゃないか。

「大丈夫ですよ、ルトリアさん。売れますって!」

ユーリアナさんの楽観主義も、ここまで来たらあっぱれだ。

売れなくても知らないんだから。本当に。