Music of Frontier

「皆さん、準備は出来ましたか?」

「あ、ユーリアナさん」

俺達以上にバタバタして忙しいユーリアナさんが、控え室に顔を覗かせた。

「そろそろ本番なので、舞台袖の方に待機してください」

あ~…。なんかいよいよだなー。

未だに現実感が伴わないんだよな。何でだろう。

「客席、どう?人入ってる?」

「凄いですよ。ほぼ満席状態です」

「マジかっ」

満席。ほぼ満席…か。

…満席って、どんな感じなんだろうな~?

本番前なのに、俺はそんな呑気なことを考えていた。

俺がどれだけヤバい心理状態か、これで察しがつくだろう。

「アルバムの売り上げも想定以上ですよ。用意していたぶん、ほぼ完売状態です」

え。あのCD、売れてるの?

ジャケットのセンター俺なのに?皆何かと間違えて買ってないよね。

ちょっと心配になってきた。

「インターネットサイトの方でも販売してますが、そちらも売れ行き好調みたいです」

「へぇ…。それは凄いですね…」

「棒読みじゃないかルトリア…」

皆、そんなに買ってどうするの。

転売しても売れないよ?

地に足がつかない、何処か宙ぶらりん状態のまま。

俺達は、舞台袖に待機した。

ホールの中は既に暗くなっている。いよいよだ。

「皆…ここまで来たんだから、やれるだけのことをやろう。そして、今日このステージを、心行くまで楽しもう」

ミヤノが、俺達に向かってそう言った。

「おう!任せろ!」

「うん。頑張ろうね」

「あぁ。…ルトリアも、大丈夫か?」

「ふぇ?はい。頑張りましょう」

未だに頭ふわふわ状態の俺だった。

俺の中でライブと言ったら、ステージと言ったら、あくまでもライブハウスのそれだった。

こんな立派なホールのステージで、しかもほぼ満席の観客を前に歌うなんて、イメージすら出来ていなかった。

自分の歌を、それだけ大勢の人が聴きに来ているなんて…思いもしなかったのだ。

自分がそれだけの価値がある人間だなんて、思ったことすらなかったのだ。

…あの日から、ずっと。





だから。