Music of Frontier

その日の俺は、本番前だというのに大人しかった。

いつもの俺だったら、こんな大舞台の前は、「緊張する~」とか、「ぶぁ~」とか奇声を発して、大騒ぎしているのだが。

今日の俺は、恐ろしく普通だった。

「うわぉ…。なんか舞台衣裳派手ですねぇ。ちょっと気合い入れ過ぎでは?」

衣装はスタイリストさんが選んでくれた。

髪もお化粧も、プロの人がやってくれた。

有り難いのだけど、何だかマネキンにされた気分だった。

これで完成です、と姿見を見せられ、俺はそこに映った自分の姿にそんな感想を抱いた。

「もう少しシンプルで良かったような…」

「それくらいで丁度良いだろ。お前主役なんだから」

「あ、ルクシー…」

振り向くと、そこには同じく身支度を整えたルクシーがいた。

成程。俺、このくらい派手にしてないと、ルクシーやミヤノ達のイケメンぶりに完全に置いていかれてしまうから。

スタイリストさんの気遣いだな。

更に。

「うぉ~!なんかテンション上がってきたぜ!」

「いよいよだな」

エルーシアとミヤノも、準備万端。

そしてもう一人、ベーシュさんも。

「やっと終わった。長かった」

メンバーの中で唯一の女性であるベーシュさんは、身支度にかける時間も一番長かった。

だが、その成果は凄まじいものがある。

いつも美人なのに、今は超美人。

モデルさんが立ってるのかと思ったよ。

「いやぁ、本当にいよいよですね。お客さん来てるかな…」

今日は朝からあれやこれやと忙しくて、観客席を見れてないのだが。

来てるだろうか。せめて一人…いや、二人くらいは。

チケットの売れ行きはかなり好調だと聞かされているのだが、やはりこの目で見なければ実感が沸かず。

「よーし。今のうちに発声練習しておこうっと」

一人でもお客さんが来てくれているのなら、俺のやるべきことは一つ。

ただ、全力を尽くすのみ、だ。

「…」

「…」

「…?何ですか?」

ルクシーやベーシュさんが、俺のことをじっと見つめていることに気づいた。

何?何見てるの?

顔に何かついてる?

「…ルトリアが自然体だ。本番前なのに」

「いつもは鬱陶しいくらい緊張してるのにね」

「影武者じゃね?」

「むしろ心配になってくるよな」

「…」

…皆さん。

…ちょっと、酷くない?

いや、普段から俺が大騒ぎしてるのが悪いんだけど。

「影武者じゃないですよ…」

「じゃあどうしたんだ。今日本番だぞルトリア。リハーサルだと思ってないか?」

ちゃんと本番だって分かってますよ。

自慢じゃないけど、昨日の晩は眠れなかったよ。

「別に、緊張してない訳じゃありませんよ」

「そうなのか?」

「緊張し過ぎて、一周回って自然体になりました」

「…あぁ、成程。そういうことがあるのか」

「便利な身体だね」

緊張し過ぎると、むしろ冷静になることってない?

今の俺、それだから。

決して緊張していない訳じゃないのだ。それだけは忘れないで頂きたい。