Music of Frontier

俺がガクブルしているうちに、ユーリアナさんとの話し合いは円満に進んでいった。

単独ライブって…何?

アルバム発売って何?

それ美味しいの?素パスタとどっちが美味しいの?

なんだか怖くなってきたので、帰っても良いですか。

ようやく話し合いが終わり、ユーリアナさんが帰ってからも。

俺は、その場で硬直していた。

ルクシーはそんな俺を置いて帰らず、肩を揺さぶって正気に戻してくれた。

「大丈夫かルトリア。しっかりしろ。もう帰るぞ」

「…ぽけー…」

「…駄目か。仕方ない、ベーシュ。頼んだ」

「分かった」

ベーシュさんの渾身の一撃が脳天を炸裂し、俺は物理的に正気に戻された。

「ふぁっ!」

痛い。ベーシュさん、あなた今本気で。

「大丈夫か、ルトリア。話についてきてなかっただろ」

「あ、あれ?ユーリアナさんは?」

「もう帰ったよ」

そうなの?いつの間に?

全然見えてなかったよ。

「な、なんだか現実的じゃなくて…。放心してました…」

地に足が着かないと言うか…。

漫画の中の出来事みたいで、全然現実感が伴わない。

「まぁ…気持ちが分からないことはないが…」

「トントン拍子にここまで来たもんな。無理もないよ」

ルクシーとミヤノも、この反応。

そりゃそうでしょ。ついこの間まで俺達、「yourtubeの動画、再生数二桁行った~。わーい」とか言ってたのに。

それが今や、単独ライブの話やら、アルバムの話やらを当たり前のようにしてる。

地に足が着かないのも当然だ。

身体がふわふわ飛んでるみたい。

もしかして、これ、夢オチじゃないよね?

そんなことまで考えてしまうのだが。

いや、もしこれが夢だったら、さっきのベーシュさんスマッシュで起きてるはずだから、多分現実なのだ。

はー…。現実…。

「…俺、本当に単独ライブするんですか。皆の前で歌うんですか」

「そうだよ」

「CD出すんですか。アルバム出すんですか」

「そうだよ」

「…」

…マジで?

売れるの?それ。大丈夫?

「信じられないのは分かるが、全部現実なんだ。受け止めろ、ルトリア」

「受け止めるまで…三年くらいかかりそうですね…」

「そこを短縮して、三十分やるから受け止めろ」

せめて三日にして。

三日。三日あったら受け入れるから。

「ともかく…単独ライブをやるにしても、アルバムを出すにしても、まだ準備は必要だ。そう焦る必要はないさ。な、ルトリア」

ミヤノが、俺を励ますようにそう言った。

「どうも…ありがとうございます…」

こういうとき。

「いつまでもウジウジしやがって、鬱陶しいんだよ馬鹿」と罵らない彼らだからこそ。

俺は、今までここまで、一緒にやってこれたのだと思う。