Music of Frontier

…よく考えたら。

ユーリアナさんがマネージャーで良かった。

強面の屈強なお兄さんがマネージャーだったら、俺は萎縮してしまって、何も言えなかっただろうし。

ユーリアナさんは席に着き、俺達に契約書の説明をしてくれた。

右も左も分からない俺達の為に、ユーリアナさんは丁寧に一つずつ説明してくれた。

契約書も隅々まで見たけれど、最初に心配していた、詐欺的なものではなさそうだった。

これなら大丈夫だろうと、俺達はそれぞれサインをして、判子を押した。

これで、もう戻れない。

一歩を踏み出したからには、突き進むのみ。

「それでは…早速、お仕事の話をしたいと思うのですけど、良いですか?」

「えっ…早速ですか」

「はい」

ユーリアナさんは、意気込みに満ち溢れていた。

なんて熱心なマネージャーなんだ。心強い。

「まず、L区にある区民ホールで単独ライブの話が来てます。受けても良いですよね?」

初っぱなから目玉が飛び出そうになった。

…え?単独?単独って言った?今。

「単独ライブが…。来るものが来たな」

「へっへっへ。なんか燃えてきたぜ」

ルクシーもエルーシアも、何で落ち着いていられるの?

もしかしたら、俺の思ってる単独ライブと、皆が思ってる単独ライブは、違うものなのかもしれない。

その可能性はある。

「…えっと、ユーリアナさん。一応確認しておきたいんですけど…」

「はい、何ですか?何でも聞いてください」

ありがとう。

「単独ライブって言うと…『frontier』が単独で区民ホールを借りて、ライブをするってことですか?」

俺の認識では、単独ライブってそれなのだが。

するとユーリアナさんは、きょとんと首を傾げた。

「そうですけど…何か不都合が?」

「いえ…。ということはつまり、他のバンドは参加しないんですよね?俺達だけでやるんですよね?ライブ…」

「はい。以前、yourtubeでライブ配信されてましたよね。あれを今度は、観客の前で、ステージの上で行うんです」

「…」

…だよね。

単独ライブって、そういうことだよね。

俺の認識、間違ってないよね。

「…それ…大丈夫なんですか…?」

俺は、心の底から不安になった。