Music of Frontier

…その晩。

「そんな訳なので、俺はサインを考えようと思います」

「…そうだな」

これには、ルクシーも同意。

本当はライブで疲れてて早く寝たいのだけど。

思い立ったが吉日って言うだろ。

早いところサイン考えておかなくては。

これから先、また「サインください!」って言われたとき、困るよ。

もう二度と書けない、その場限りのサインばかりじゃファンに失礼。

俺はルクシーと二人、ノートとサインペンをテーブルに置いた。

さて、考えよう。

「…」

…しかし、アレだね。

「自分のサインを考える」って、遊び半分でやったことある人は多々いると思うのだけど。

いや、俺はやったことないが。

自分のサインを考えるのって…何て言うか…おこがましいような気がして、嫌だね。

お前何様のつもりだよ、って自分で思っちゃう。

「自分はサインを求められる人である」ってことを、認めちゃう訳だからね。

誰かにサインを書いて欲しいと頼まれること前提だよ?

不遜だよな~…。

そう思うと、サインなんて考えるのはやっぱやめようかなと思えてくる。

しかし。

「…ルトリア、お前今、『俺がサインを考えるなんて不遜なことして良いのか』とか思ってるだろ」

「ぎくっ」

「良いんだよ。今日だけでも何枚求められたと思ってんだ。チャンネル登録者数は日に日に増えていってる。大丈夫だ、考えろ」

「…」

…ルクシー、あなた俺の考えてることは何でもお見通しなんですね。

…仕方がない。恥ずかしいしおこがましい気もするけど、真面目にサイン考えよう。

『frontier』チャンネルが、日に日に登録者数を増やしているのも事実。

ヤバいよ俺達。もう中堅yourtuberって言って良いんじゃないの。

嘘ですごめんなさい。そこまで行ってません。

謙遜して生きていこう。

「…とりあえず崩した感じで書けば良いんですよね。こんな感じ…?」

何パターンか書いてみて、その中から決めよう。

出来れば出先でも書きやすいような。

ひとまず、五種類くらい書いてみた。

どれも適当に考えたものだけど。

「どうです…?どれが良いですかね」

「…お…。ルトリア良いじゃないか。どれでも良いと思うが…強いて言うなら二つ目のそれだな」

「そうですか?」

「でも、シンプルだな。星でもつけたら良いんじゃないか?」

星って。

ルトリア・レイヴァース★みたいな?

我ながらキショイ。字面がもう。

「嫌ですよ…」

「いや、お前はそれくらいで丁度良いと思うぞ。少し崩して書くんだよ。ほら、こんな感じで…」

「えぇ~…。恥ずかしいですよ…」

「サインを考えること自体が充分恥ずかしいから安心しろ。お前のトレードマークになるぞ」

「ん~…。まぁ、ルクシーがそこまで言うなら」

キモがられたらまた変えれば良いし。

とりあえずこれで、サイン完成。

今度から、サイン求められたらこれ書こう。

練習しておかないとな。百回くらい書いたら覚えるだろう。

あっ、でもこうしてサインを考えたは良いものの、もう二度とサインを求められなかったりして。

凄く悲しい。

願わくばこのサインに、出番がありますように。