Music of Frontier

しかし、現実は非情である。





「はぁぁぁぁ~…!ルクシー、ルクシー、あの人見てくださいよ!」

「あ?誰?」

「イケメンですよあのイケメン!」

「誰のことだ?」

「あそこですよ!柱の影で談笑してる茶髪の!イケメンじゃないですか!」

「そうか…?そうでもないだろ」

「…あなた、王者の余裕ですか。自分がイケメンだからって、他人のイケメンぶりが分からないんですね!目が肥えてるんですよ!」

「何を言ってるんだお前は…ちょっと落ち着け。緊張してるのか?」

緊張なんて、してるに決まってる。

むしろ何でルクシーは平然としていられるの?

「あんなイケメンが平気でごろごろと…。信じられます?おかしいですよ。あの人がボーカルだったらどうしよう。『あのボーカルは格好良いのに、こっちはブサww』なんて笑われるさだめなんだ」

「大丈夫だ。まだあの人がボーカルだと決まった訳じゃないだろ。ドラムかもしれないだろ」

「ドラム!?ドラムなんて余計イケメンポジじゃないですか!」

「分かった。分かったから落ち着け。ったくお前、いい加減ライブの度に緊張してキャラ崩壊するのやめろ」

別に崩壊してないもん。もともとこんなだもん。

俺の肝っ玉は小さいことで定評があるからな。

そしてチキンなものだから、余計なものばかりが目に入る。

「あっ!あの人ボーカルですよ。喉の調子整えてる」

あーあー、って発声練習してる。しかも俺よりイケメン。

あの人は間違いなくボーカルだ。

おまけに、本番前なのにあの余裕の表情。俺とは大違いだ。

俺だったら、今柱の影から「わぁっ!」てやられると「ぴぎゃぁぁっ!」って情けない悲鳴をあげる自信があるが、あの人ならきっと余裕の顔をして、「どうしたの?」と言うはずだ。

間違いないよ。

それくらい、俺は緊張している。

「新しいライブ会場がこんなに大きいなんて聞いてませんよ…!」

「あぁ…確かに大きいな」

ミヤノの親戚も、何だってこんなライブハウスを紹介してくれたんだ。

いや、有り難いことではあるけども。

これじゃライブハウスじゃなくて、もうコンサートホールだ。

それくらいでかいよ。

当然、出演するバンドもイケメン美女揃い。

こんなライブハウスでライブするくらいなのだから、実力も相当なものに違いない。

俺、他のバンドについては全然詳しくないから、顔を見てもいまいち分からないけども。

かなり高価な楽器を持ってる人もちらほらいる。

あっ、あの人。凄いプロそう。プロっぽい。

きっとメジャーデビュー目前だったりするんだろう。そうに違いない。

俺が言うんだから間違いないよ。多分。

そんな気がするんだ。気がしてるだけ。

「きっと俺が一番の雑魚ボーカルですよ。アンコールの代わりに帰れコールされるんですよ!」

「されねぇって…。大丈夫だよ。お前は受験生か」

受験会場に来ると、自分以外の誰を見ても「自分より頭良さそう」と思ってしまうアレだな。

一見ちょっと馬鹿そうに見えても、「でもそういう人に限って実は…」とか思っちゃうんだよな。

分かる分かる。今俺、それになってるから。

「ほら、控え室に行くぞ。そろそろ着替えないと」

「あぁ~恥ずかしい…。こんな田舎者の顔が恥ずかしくて仕方ない!」

「落ち着け。大丈夫だ。お前も負けじとイケメンだから」

ルクシーの慰めが、今日はとても白々しく感じる。

いや待て。俺達にはミヤノが。そしてベーシュさんがいる。

ルティス帝国が誇るイケメン美女であるあの二人がいれば、そう簡単に帰れコールもされまい。

そう信じたい。