Music of Frontier

あ、この女の子知ってる。

ライブハウスの常連さんだ。いつも姿を見る。

「こんばんは。お嬢さん」

「はい、こんばんは」

多分、人が散るのを待っていたんだろう。

彼女はいそいそと俺の傍にやって来た。

「えっと…私、さっきのライブ聴いてたんですけど…」

「えぇ。いつも来てくれてますよね」

「えっ、気づいてたんですか?」

「勿論、気づいてますよ。俺、記憶力だけは良い方なので」

客席の左側の、前から二列目にいつもいるよね。

今日だけは、いつもより人が多かったせいで、もう少し後ろの方にいたけど。

「そうですか…。気づいてくれてたんですね、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。いつも聴きに来てくれて、本当にありがとうございます」

それで…えっと。

彼女は何だろう。写真?サイン?握手?

俺じゃないよね多分。そこのイケメンのミヤノさんにお声がけしたくて…!とか。

じゃ、俺はスッ込んでるべきだな。

それじゃミヤノ、パス、と俺が引き下がろうとしたら。

「…その、私…『frontier』のライブ、初めて聴いたときからいつも通ってるんです。動画もいつも観てます」

えっ。

「そうなんですか。ありがとうございます」

「私が動画を観始めたときは、その…まだ、あんまり人もいなかったんですけど…。最近は凄い活躍ですよね。ルトリアさん、声も綺麗だし上手だし、それに格好良いから…いつかこうなるとは思ってましたけど」

「…」

…声が、綺麗?

まだ人がほとんどいなかったときから、動画を観てる?

それって…もしかして。

「…つかぬことをお聞きしますが…その、あなたもしかして…俺達の動画に、コメントくださったことあります…?」

「あっ…はい。昔…『華吹雪』って名前で」

…やはり。

「あなたが『華吹雪』さんだったんですね」

「はい…。覚えててくださったんですね」

「当然ですよ。俺達の動画の…初めてのコメントでしたからね」

あのときの俺は、「声が綺麗ですね」という言葉の意味に何が込められているのかと、あれこれ考えては悶絶していたものだが。

どうやらあのコメントは…俺が危惧していたような、悪意の込められたものではなかったようだ。

「嬉しいです。私…『frontier』の、ルトリアさんの歌に惚れました。これからも頑張ってください。応援してます」

「ありがとうございます。あなたの期待に応えられるように、精一杯頑張りますね」

手を差し出すと、『華吹雪』さんは、嬉しそうに握り返して、そしてにっこりと笑った。

彼女は、いわば…俺達の、一番最初のファンと言えるのかもしれない。