Music of Frontier

「…」

…もしかして、俺はまだ眠っているのだろうか。

そうだ、きっとそうに違いない。

「なんだ…。まだ夢の中なのか…」

随分とリアルな夢を見ていることだ。

ベッドの質感も本物そっくりだし、夢の中特有の、あのふわふわした感じがない。

まるで現実のようだな。

でも、これは夢だ。夢以外に有り得ない。

夢でもなきゃ、こんな都合の良い光景は有り得ない。

あ、そうだ。

ここが夢の中だったら、もしかして俺、飛べるんじゃない?

皆、一度は「空を飛ぶ夢」に憧れるものだろう?

俺もそう。夢で良いから飛んでみたい。

こんなリアルな夢なんだから、きっと今なら飛べるはず。

「…よし」

いざ、飛翔。

俺はベッドからしゅばっ、とジャンプした。

俺のイメージでは、真っ白な翼がバサッ、と生えて、美しく空を舞う…はずだったのだが。

「ぶはっ!」

ベッドから勢い良く、床にダイビング。

顔面を強打し、ボタボタと鼻血を垂らす羽目になった。

あれ?なんか俺の思ってたのと違う。

俺は夢の中でさえ、空を飛ぶことは許されないと言うのか?

それとも…これは、もしかして、現実?

いやいや、そんなはずは。

あるいは、俺の目がおかしくなっているのかもしれない。

片手で鼻血を押さえ、片手で目をゴシゴシ擦る。

改めて携帯を見るも、やっぱり見間違いではない。

これは一体…どういうことなんだ?

すると。

「ルトリア?今の音はどうした?」

「あ…ルクシー…」

ベッドから落っこちた音を聞き付けて、びっくりしたルクシーが駆けつけてくれた。

「何をやってるんだ、お前は…?ベッドから落ちたのか?」

「落ちたと言うか…ちょっと…空を飛ぼうと思ったんです」

「…は?」

ルクシーは、何を言ってるんだこいつは?みたいな顔で俺を見た。

「夢の中なら空が飛べると思ってジャンプしたら、出来なかったんです」

「…」

一瞬にして真顔になったルクシーは、俺の両肩にぽん、と手を置いた。

「そうか…。最近はもうすっかり良くなったと思ったが、まだ早かったか。よし、今から…エインリー先生のところに行こうな」

「別に頭がおかしくなった訳じゃないですよ!」

「ルトリア、お前昨日の薬はちゃんと飲んだな?」

「飲んでます」

お薬サボったりしてないよ。ルクシーに怒られるから。

俺は、至って正常である。

「なら何でそんなことになってる?夢の中?空が飛べる?一体どういうことだ?」

「いや、だって…。あまりにも信じられないものを見たから、これは絶対夢に違いないと思って」

でも…これ、夢じゃない…んだよね?

さっき床にダイブして、凄く痛かったし。

鼻血は出てるし。

それに、ルクシーも本物にしか見えない。

ということは、これは夢の中ではなく…現実…?

「…一応聞いておきます。ルクシー、あなた幻じゃないですよね?」

「本物に決まってるだろ。ここは現実だ。しっかりしろ」

「…やっぱり…」

なら…この画面は、本物なのか。

それとも、バグだと言うのか。

「ルトリア、一体何があったんだ?」

「…これです」

俺は、携帯の画面をルクシーに見せた。

そこには、yourtubeの『frontier』チャンネル登録者数が映し出されていた。

これを見れば、ルクシーも「夢を見ているのか?」と思うに違いない。