Music of Frontier

本番、15分前。

「はぁぁ…。緊張する…」

「大丈夫かルトリア。お前は本当に世話が焼ける奴だな」

本当ごめんなさい。

毎回こんなやり取りしてるよね。俺の肝っ玉が小さいのが原因。

少しはベーシュさんを見習わなくては。今日も平然としていらっしゃるぞ。

「今日のステージ…。皆ルックス重視過ぎません?今歌ってる人もイケメンだし…」

俺達の前のバンド。あのボーカル、イケメンじゃん。

格好良い金髪でさ。優雅にエレキギター弾きこなしていらっしゃる。

良いなぁ金髪が似合うって。俺が金髪にしたら、ただのコスプレになるだろうに。

「そうか?俺は別になんとも思わないが…」

「そりゃルクシーがイケメンだからですよ…」

イケメンにブサメンの気持ちは分かるまい。

ブサメンにイケメンの気持ちが分からないのと同じ。

「それに、あいつよりルトリアの方が歌が上手いぞ」

「あ、それエルも思った」

…何だと?

「何で…?俺より上手いじゃないですか、あの人…。俺、『frontier』の動画よく観ますけど…いつもミュートにしてますよ…?」

自分の声が気持ち悪いから。

もうね、蕁麻疹出そうになる。

「自分の声は録音すると気持ち悪く感じるもんだ。俺達は気持ち悪いなんて思わないから安心しろ」

「あの人達だけじゃないですよ。さっきの控え室でも…明らかに俺よりイケメンと美女揃いで、しかも歌上手いし…」

「…話聞けよ。あと、お前も負けてないどころか、あの中でお前が一番ってくらい上手いから、気にするな」

「ちょっとルクシー、あなた大丈夫ですか?救急車呼びます?」

あの中で俺が一番なんて、おこがましくて考えることすら出来ない。

俺が一番下手、なら分かるけど。

「ったく…。こいつの自己評価の低さには困ったもんだ」

「まぁ、下手に自意識過剰よりは良いじゃないか」

「はぁぁ…緊張する~…」

ルクシーとミヤノがひそひそ言ってるのも聞かず。

俺は、手のひらに必死に「神」と書いて飲みまくった。

今日だけで何人の神を飲んだか分からないよ。

「ほら、前のバンド終わった。そろそろ行くぞ。覚悟を決めろ」

「…はーい…」

その通り。ここまで来たからには、覚悟を決めろ。

「大丈夫だルトリーヌ。観客全員、ニンジンとゴボウと大根だと思え」

「分かりました。お野菜ですね」

お野菜を前に歌うのなら、緊張する必要はない。




…と、思ったが。