Music of Frontier

俺が要らないと言うと、ミヤノは驚いたようだった。

「何で?…あっ、あれかルトリア。他人が握ったおにぎりは受け付けない派か。それは悪かった」

「マジかルトリーヌ。お前神経質だな。ミヤーヌだってちゃんと手洗ってるよ」

「あ、いやそうじゃなくて」

別に俺は、他人が握ったおにぎりを食べられない派ではない。

そういう人が一定数いることは知ってるが。

「大丈夫だぞルトリア。素手で握ってる訳じゃない。ラップで包んでるから」

「…そういう訳じゃなくて…」

「じゃあ、何で?食欲ないのか?」

「…そんな感じです」

「なんだ…。まだ緊張してるのか?」

そりゃ緊張はしてるよ。

ってか、ルクシー達は緊張してないの?

それに。

「今食べたら…お腹出ちゃうじゃないですか…。『frontier』のボーカルはデブだな、って言われますよ…」

「なんてこと気にしてるんだよ…お前…。俺達もう食べちゃったんだぞ」

「ルクシー達は良いですよ。イケメンだし、それに俺ほどは目立ちませんし…」

俺はセンターなんだから、センターの俺がお腹ぽっこりーヌだったら、笑い者だろう。

恥ずかしい。

折角「左右非対称」の汚名を返上したのに、新たに「妊娠5ヵ月」の称号を得ることになってしまう。

「おにぎりくらいで腹が出るか。良いから食っとけ。ミヤノが折角作ってくれたんだから」

「うっ…それは…」

そんな言い方されたら、嫌です、とは言いにくいじゃないか。

「今何か食べておかないと、本番で馬力が出ないぞ。良いから食べておけって」

「…う~…」

「ほら、ルトリア。どれが良い?どれでも好きなの取れよ」

「…じゃ、鮭おにぎり頂きます…」

ミヤノの鮭おにぎりを一口食べてみる。

うん、美味しい。

「美味しいですね、これ」

「だろ?」

ちょっと元気が出た。

成程、これなら馬力が出そうだ。

ミヤノのおにぎりパワーで、本番も乗り切ろう。