Music of Frontier

髪型も無事に決まったので。

いざ、お化粧とお着替え。

俺はまだお化粧が下手くそなので、ミヤノ達に手伝ってもらった。

ついでに衣装の方も、ミヤノに選んでもらった。

…あれ?俺、ミヤノにおんぶにだっこじゃない?

化粧と着替えが済み、控え室に置いてある姿見を見る。

「うわぁ…」

何だ、これは。

誰だ?って言いそうになった。自分なのに。

「どうだ、感想は?」

「俺が俺じゃないみたいです…。ってか、派手過ぎやしませんか?」

ちょっと、不安になってきた。

ライブハウスのライブより化粧は濃いめだし、衣装も派手。

これじゃ、本物のアイドルみたいじゃないか。

「そのくらいで良いんだよ。お前はボーカルなんだから」

「えぇぇ…。でも…」

「それに、『frontier』のボーカルは声だけじゃなくルックスも売りなんだから、引き立たせないと勿体ない」

…ルックスが売り?

お笑い担当、って意味で?

「それはミヤノやベーシュさんのお仕事でしょ。あなた達こそ派手にしないと」

俺を飾り立てて前に出し、顔面によるウケを狙うのも結構だが。

それより、イケメンのミヤノと、美女のベーシュさんを推し立てた方が、人気を集めるのでは?

「ルトリアはいつになったら自分の魅力に気づくんだ?全く…」

「謙遜も過ぎれば嫌みだよなー」

「それがルトリアの良いところでもあるけどな」

ミヤノ、エルーシア、ルクシーが何やらひそひそ言っていた。

何言ってるの?俺の悪口?

「とにかく、お前はそれで大丈夫だ。いつもライブハウスで歌ってるように、思いっきり歌ってこい」

「それは…そのつもりですけど…」

あっ、なんかちょっと緊張してきた。

いつもライブハウスで歌ってるのとは訳が違う。多くの人の前で、しかもこんな派手な格好で…。

そう思うとはらはらしてきたのだが、ミヤノ達は。

「出演時刻は午後一時から…。もうしばらくあるな。この間に、軽くお昼食べるか」

「だな」

は?ちょっと…。

呑気なのでは?

「この格好じゃ外に食べに行くのも無理か…。コンビニで何か買ってこようか?」

「いや。俺がおにぎり作ってきたから、どうぞ」

ミヤノは、おにぎりがたくさん詰まった大きなタッパーを差し出した。

女子力のミヤノ。

「さすがミヤーヌ~♪これ具何?」

「今エルが持ってるのはおかか。そっちが鮭…。で、これが梅。こっちがツナマヨ」

「ツナマヨくれー!はい、ルクシーヌこれ、おかかパス」

「お前…。…まぁ良いや。おかか好きだし」

ツナマヨおにぎりにかぶりつくエルーシアと、そのエルーシアに押し付けられたおかかおにぎりを齧るルクシー。

更に。

「ベーシュはどれが良い?」

「梅が欲しい」

「じゃ、梅どうぞ」

「ありがとう」

梅おにぎりにパクつく、ベーシュさん。

「ルトリアはどれにする?」

「…」

ミヤノは自分も梅おにぎりを一口齧りながら、タッパーを俺に差し出した。

…ありがとう。とても美味しそうですね。

でも、残念ながら。

「…俺は要らないです…」

とてもじゃないが、食べる気になれない。

と言うか、食べてはいけないと思うのだ。俺は。