Music of Frontier

汚い話をして、大変申し訳ないが。

そりゃもう、ゲロ吐きそうなくらい。

こんなに緊張したのって…帝国騎士官学校の入学試験の日以来かな…。

「はぁぁう…」

「おい、大丈夫かルトリア。ボーカルとしてあるまじき声が出てるぞ」

俺の緊張ぶりと言ったら、ルクシーが思わず心配して声をかけてくれるくらい。

…はい。済みません。

緊張もするだろう。何せ、人の前に立って歌うなんて、初めての経験。

「何で今更そんなに緊張すんだよ。yourtubeに動画挙げてるんだから、今更緊張することないだろ」

それは…そうかもしれないけど。

でも違うんだよ。分かるでしょ?

あのときは、カメラに向かって歌えば良かった。

一方で、今回は生身の人間を前にして歌わなければならない。

人間怖い。

だって、顔が見えるんだよ?お互いに。

俺の歌がもし、つまんなかったとする。

その場合、素直な観客は、「こいつの歌、超つまんねぇな…」という顔をして、俺の歌を聴くことになる。

俺はその顔を見ながら、歌わなきゃならないことになる。

どんな拷問ですか?それ。

それを拷問だと感じるような奴は、ボーカル向いてないんだと言われればそれまで。

でも俺だって人間だから。

「上手いね」って言われれば嬉しいし、「下手くそww」って笑われれば傷つく。

出来ることなら、今日の観客が優しい人で、下手くそだと思ってても顔に出さないタイプであることを願う。

するとエルーシアが、俺の肩にぽん、と手を置いた。

「心配するなルトリーヌ。お前イケメンだから、多少歌が下手でも顔で許してもらえるよ」

「何ですか、それは…。全然フォローになってませんよ…」

「大丈夫かルトリア。緊張してるのか」

「ゲロリアンしそうです」

「…重症だな…」

あぁ緊張する。本番まであと30分切ってるのに。

この心臓ばくばく状態で、ステージなんて立てるのか。

「皆さんは緊張してないんですか…?」

「してるけど…。お前ほどではないな」

チキンは俺だけですか。そうですか。

やっぱりボーカル向いてないんじゃないかなぁ。

「大丈夫だ、ルトリア。そんなに心配するな」

ルクシーは、そう言って俺を励ましてくれた。

「お前が万一失敗しようが、舞台でスッ転ぼうが、俺はお前の味方だし、お前の責任にはしない。最後まで一緒に舞台に立つ。俺達は一蓮托生だ」

「ルクシー…」

あなた、なんて良い人なんですか。

ちょっと元気が出ました。

「…ん?」

ちらっと横を見ると、ベーシュさんが相変わらず、感情を感じさせない表情で立っていた。

…ベーシュさんは、少しも緊張した様子がないよね。

「…ベーシュさん、緊張してないんですか?」

「ん…?してるよ」

緊張してるなら、もう少し緊張した顔をしてください。

「でも、同時に楽しんでもいる。本番前の、この張り詰めた緊張感…私、嫌いじゃないから」

「…」

…師匠って呼んで良いですか?今日から。

緊張を楽しむ余裕があるなんて。素晴らしい。

俺もそうなりたい。

俺とは心臓に生えてる毛の数が違うな。ベーシュさんは。

「大丈夫だ。今は緊張してても、ステージに立つと楽しめるようになるよ」

ミヤノも、俺を励ますようにそう言ってくれた。

皆…。

メンバーの優しさに、涙が出そうです。

「ほら、そろそろ出番だぞ」

「…手に人って書いて飲めば良いらしいぞ、ルトリーヌ」

「…人じゃ心許ないので、神って書いて飲みますね…」

神を飲み込めば、もう人など恐るるに足らず。

三回くらい手に神と書き、アシスファルト語でも書き、ごくりと飲み干して。

いざ、初めての舞台へ。