Music of Frontier

課題が出来ていない、と。

…度々繰り返して申し訳ないが、もしこれが帝国騎士官学校だったら。

「貴様!そんなもんが言い訳になるか!不眠不休でやれ!」と、ぶん殴られるところ。

俺も厳格な先生になったことだし、ここは皆に知らしめる為にも、ビシッ、と叱るべきだろうか。

「…」

…でもなぁ。

この子達だって、何かと色々忙しいんだろうし…。

歴史の課題や化学の課題が、難しかったのかもしれないし。

それにこの子、アシスファルト語の課題は出来なかったけど、歴史と化学の課題はちゃんとやったんでしょ?

何もやらずにサボって遊んでた訳じゃないんでしょ?

だったら、出来なかったことを責めるより、出来たことを褒めるべきなのでは?

俺が担当してるのはアシスファルト語だけだけどさ。

この子達は、五教科も勉強してるのだから。

どの教科も完璧にするのは、大変だろう。

教科によって得手不得手もあるだろうし…。

何よりここは、帝国騎士官学校ではないのだ。

故に。

「もう…仕方ないですね。でも、次はちゃんとしてこないと駄目ですよ?」

「!はい!頑張ります」

仕方がない。ここは、皆で同時に訳すか。

「じゃあ一緒に訳しましょうか。えーっと…ここは、文法書も一緒に開いてください。69ページの用法を…」

ちょっと文法書がないと難しい箇所なので、皆で確認しながら進めようと思った。

しかし。

後ろの方の席に座っていた女子生徒が、そっと挙手した。

「あの~…先生…」

「はい?えっと…アカネさんですね。どうしました?」

「その…今日、うっかりして…文法書忘れちゃって…」

…あら。

一応昨日、「明日は文法書を持ってきてくださいね」と伝えておいたのだが…。

…考える。何て言うべきか。

しつこくて申し訳ないが、ここが帝国騎士官学校なら。

「忘れ物…?舐めとんのか貴様!やる気あるのか!貴様に授業を受ける資格はない!」と、蹴り飛ばされるところだ。

ここで一度ビシッ、と言っておけば、もう二度と忘れ物はしなくなるだろうが…。

「…」

…でもさ。

忘れ物くらい、誰でもあるじゃん?

何もかも忘れない人の方が珍しいよ。

大体ここで俺が「忘れ物しやがって馬鹿が!」って怒鳴っちゃったら。

俺、二度と忘れ物出来ないじゃん。

自分の首を絞めることにもなりかねないので、注意出来ない。

それに何より。

ここは第二帝国騎士官学校じゃない…そうだろ?

「分かりました。じゃ、隣の…ユカリさん、見せてあげてくれませんか?」

「はーい」

今日の授業で文法書を使うのは、この部分だけだろうし。

ちょっとお隣に見せてもらえば事足りる。

こんなことで叱って、時間をロスする方が馬鹿馬鹿しい。

「それじゃ再開しますね。ビシバシ行きますよ!」

「…」

威厳溢れる教師になる為、俺はスパルタな授業を行った。



…つもりだった、のだが。