Music of Frontier

しまった…。溜め息、聞かれちゃった。

「何か憂鬱なこと?」

「…憂鬱ではないんですけど…」

うん。不安ではあるけど、憂鬱な訳ではない。

憂鬱だと思うことなら、そもそもやらない。

「例の、バンドのことかな?」

…エインリー先生には、何でもお見通しのようだ。

「そうです。実は今度…yourtubeにミュージックビデオを投稿しようって話になってて…」

「わぁ、凄い。本格的だねぇ」

そう。本格的なんだよ。

だからこそ、その…緊張してしまって。

「楽しそうじゃない。不安なの?」

「顔出すんですよ…?俺。声も出すし…。緊張するじゃないですか。もし『不細工だな』とか『音痴じゃん』とか言われたら…」

…きっと、すごーく傷つくよね。

そんなこと思う奴が、動画投稿すんなって話だけど。

しかし、エインリー先生は何故か、にこにこと楽しそうに笑っていた。

「何で笑うんですか…」

俺の不幸を嘲笑ってるんですか。

「いや、ごめんね。楽しそうだなぁと思って」

「そりゃ、楽しいのは楽しいですけど…」

「君、ハンサムだから大丈夫だよ。何処に顔を出しても恥ずかしくないよ」

エインリー先生まで。

きっと近眼だな。

「別に悪いことしてる訳じゃないんだから、堂々としてれば良いんだよ。むしろ、『皆、自分達の歌を聴いて!』って気持ちで歌うくらいじゃないと」

「…うーん…」

そのくらいの心意気で…歌ってるつもり…ではあるんだけどな。

多分俺、そんなに自信満々に「聴いて!」って言えるほど上手くない。

所詮素人に毛が生えた程度、そもそもバンド歴はメンバーの中では俺が一番短い訳で…。

「…ボーカルの俺が変なことしちゃって、もし他のメンバーの評価まで落ちちゃったら、と思うと…やっぱり、不安にもなりますよ」

このボーカル不細工だから、とか。

このボーカル下手くそだから、とか。

そういう理由で『frontier』の評価が下がるのは、嫌だな。

それが一番嫌だ。

しかし、エインリー先生は。

「本当にそうかな?ルトリア君」

「…え?」

「君達は仲間なんでしょう?対等な仲間だ。皆君の実力を認めているから、君と一緒にいるんだろう。だったら君がやるべきことは、不安を口にするよりもまず、仲間に恥じない最高のパフォーマンスをすること…じゃないかな?」

…それは…。

「確かに、君の評価はグループ全体の評価になるだろう。でもその逆、グループ全体の評価もまた、君の評価になる。堂々としてなさい。恥ずかしがってる人が一番恥ずかしいよ」

「…そうですね」

多少痛くても。下手くそな癖にイキるなよ、と思われても。

いや…きっと思われるだろうけど。

「誰かに『上手だ』って思われるよりもまず、君達自身が楽しむことだよ。それが一番大事。人の評価はその次じゃないかな」

「…はい。本当…そうですよね」

不思議なもんだ。

あんなに不安だったのに、エインリー先生に話を聞いてもらって、元気が出た。

さすがだなぁ。二年以上俺を看てくれていたことはある。

「分かりました。…楽しんできます」

「うん、楽しんでおいで。…それと、動画アップしたら、私にも見せてね」

それは…どうでしょう。

顔見知りに見られたら、結構恥ずかしいんじゃないかと思うけど。

…恥ずかしがってる人が、一番恥ずかしいんだから。

堂々と…エインリー先生にも、見せるとしよう。