Music of Frontier

宴の後、俺はルクシーと一緒に、エルフリィ家の屋敷に帰った。

…まさかこの家に「帰る」なんて言葉を使うことになるとは。

俺の帰る場所はもう、マグノリア家でも、帝国騎士官学校の寮でも、△△病院の精神科病棟でもない。

そう思うと、何だか不思議な気持ちである。

「お前の前の家に比べると、狭くてボロいと思うけど…。我慢してくれな」

「とんでもない。学生寮の部屋や、今朝までいた病室よりよっぽど広いし、居心地も良いですよ」

「…そうか。そういえば…そうだな」

何より、ルクシーが一緒というだけで俺にとっては楽園に等しい。

エルフリィ家の屋敷には、ルクシーのお母様が待っていた。

ルクシーのお母様。直接会うのは、何年ぶりだろうか。

「お帰りなさい。よく来てくれたわね、ルトリア君。久し振りね」

「はい…。お久し振りです、ミセス・エルフリィ」

「随分…色々、大変なことがあったわね。裕福な家じゃないけれど、落ち着くまでゆっくりしてちょうだいね」

「ありがとうございます。お邪魔します」

ルクシー母には、ルクシーがある程度詳しく事情を話しているそうで。

ルクシー母は、酷く気の毒そうに俺を見た。

「あなたの部屋、ルクシーの部屋の隣にしたのよ」

「そうなんですか」

居候の身分なんだから、そこらの物置や屋根裏でも充分なのに。

「それとも、ルクシーと同じ部屋の方が良かったかしら」

「いえ…それは…さすがに」

俺は良いんだけど、ルクシーは邪魔じゃない?

自室なのに気の休まる瞬間がないと言うか。

「はいはい、母さん、ふざけてないで。もう日も暮れてるし、ルトリアを早く寝かせないと。寝る時間がずれたら、また寝られなくなるぞ」

「あら。ルクシーったらせっかちなんだから…。分かったわ、ルクシー、ルトリア君を部屋に案内してあげてね」

「あぁ。ほら、ルトリア行くぞ」

「…はい」

にこにこするルクシー母に見送られ、俺はルクシー母が用意してくれた部屋に向かった。

…何と言うか、羨ましいな。

あんな風に、気さくに親と話すなんて。

マグノリア家では、絶対有り得なかった。

今思えば、マグノリア家にとって子供は、愛するべき対象ではなく。

ただ、家を繁栄させる為の道具でしかなかった。

だから、道具として利用価値のなくなった俺は、あっさりと捨てられてしまった。

…悲しいことに。

「母さんの言った通り、お前の部屋、俺の部屋の隣だから。何かあったら俺を呼べよ」

「大丈夫ですよ。子供じゃないんですから」

「退院したからって図に乗るな。この間までベッドの上でめそめそしてた癖に」

ごもっとも。

あっさりと撃沈され、俺は渋々ルクシーに促されるようにして部屋に入った。

マグノリア家の自室よりはずっと狭くて、調度品も質素なものだが。

でも、あの家よりずっと気持ちが安らぐ。

それに、部屋の中の随所に手摺を取り付けてくれており、とても助かった。

…随分と、気を遣ってくれているようだ。

「…有り難いなぁ…」

そこまでされるべき人間じゃないのに、なんて考えてしまう。

ここまでしてもらったのだから、俺ももう…過去を悲観して、めそめそしてはいられない。

前を…未来の方を、ちゃんと向かなくてはな。

エルフリィ家に来て初めての晩、俺はベッドに腰かけて窓の外を眺めながら、そう誓った。