Music of Frontier

先日、ルクシーは俺に、「他のバンドメンバーに会ってみないか」と聞いてきた。

「他の…って、ルクシー以外のメンバーさんですよね」

「そうだ」

…。

…ルクシー以外の人…か。

考えてみれば、俺の病室に来るのは、エインリー先生を始めとする医療スタッフと、それからルクシーだけだ。

それ以外の人間が、見舞いに来たことは一度もない。

従って、俺はこの二年間、それ以外の人間に会ったことがない。

ルクシー以外の、バンドメンバー。

いずれは俺もそのバンドに入れてもらう予定なのだから、遅かれ早かれ、その人達にも会うことになるのだけど…。

…やっぱり、身構えてしまう。

「あの…。その人達って、俺が入院してること知ってるんですよね?」

「あぁ。お前のことは少し話してるからな」

「俺がバンドに加入希望だってことも知ってるんですか?」

「勿論。言ってるよ」

…じゃあ、メンバー希望者の品定めもされるってことだ。

「…俺が…精神科に入院してることも?」

「…うん。話してるよ」

…そっか。そうだよね。

それを隠して会う訳にはいかないよな。

「…メンヘラ野郎かよ、って思われてるかもしれませんね」

事実なんだから、そう思われても仕方ないけどさ。

「あいつらはそんなこと気にしないよ。俺が一応貴族の端くれだってことを打ち明けたときも、あっけらかんとしてた奴らだし」

「…俺が元貴族で、帝国騎士官学校をクビになったことも話してるんですか?」

そんなことまでバレているのなら、恥ずかしくて合わせる顔がないが。

しかし、ルクシーもそこは抜かりなかった。

「そこまでは言ってない。昔色々ゴタゴタして、それが原因で入院した、って言ってある。具体的なことは何も」

「そうですか…。良かった」

「あいつらも、深くは聞いてこないよ。大丈夫」

それなら、ひとまず安心…か。

でも、精神科に入院してるのは事実なんだもんな。

メンヘラ野郎だ、と思われるのは避けられない訳で。

「…足のことも言ってるんですよね」

「言ってる。事故で足が不自由になった、とだけ」

…一緒にバンドやるなら、それは言わない訳にはいかない。

杖つかなきゃ歩けないんだから、隠したってすぐバレるし。

「とんでもないポンコツが来たな、って思ってるでしょうね…」

身体もポンコツ、中身もポンコツなんだもんな。

「そんなこと思ってないって。大丈夫」

思ってるよきっと。口には出さないだろうけど。

…正直、あんまり会いたくはない。

俺は憐れまれるのも、同情されるのも、軽蔑されるのも嫌だ。

でも逃げる訳にはいかない。何度も言うが、退院したらいずれはバンドに入れてもらうつもりなのだから。

いずれ会うことになるなら、今のうちに慣れていた方が良い。お互いに。

どうしても合わないとなったら…俺が身を引けば良いだけの話だ。

「…分かりました。会ってみます」

「…良いのか?無理しなくて良いんだぞ」

「大丈夫。会いますよ」

前を向くと決めたからには。

会いたくない、なんて言ってはいられまい。