Music of Frontier

「…無理し過ぎだねぇ、ルトリア君」

「…」

リハビリを始めて十日足らずで、俺は熱を出して寝込んだ。

自分では、風邪でも引いたのだと思ったが。

診察したエインリー先生は、溜め息混じりにそう言った。

「やる気を出してくれたのは大変喜ばしいんだけど…。でもね、短期間にいきなり無理をし過ぎだよ」

「無理なんて…。今までずっとサボってたんだから…今から頑張らないと…」

「だからこそだよ、ルトリア君。君がそんなことを言うなんて、私は喜ぶべきなんだろうけど…。でも無理はしちゃ駄目。君は二年近くほとんど身体を動かしてないんだから。いきなり過度な運動はいけない」

「…」

過度な運動…って。

運動らしい運動はしていない。精々一日一時間少しくらいリハビリして、残りの時間はエレキギターの練習したり、音楽辞典を眺めたりしてるだけ。

二年前の俺は、毎日10㎞くらい走った上で、六時間くらい授業受けて、寮に帰ってからも宿題に勤しんで、それでも平気な顔をしていたというのに。

…随分と、軟弱になったものだ。

「まだ体力が戻ってないんだからね。気持ちが逸るのは分かるけど、ゆっくり戻していかなきゃ」

「…はい…」

「とにかく、熱が下がるまでは休んでないと駄目だよ。私が見てないと思って、こっそりベッドの中で勉強してたら怒るからね?分かった?」

「…分かりました」

すっかりお見通しという訳か。

こんな穏和なエインリー先生が怒るところなんて、想像出来ないけど。

普段温厚な人ほど、怒ると怖いって言うし…。

仕方がないので、今日は大人しくしておくことにする。

ベッドに寝転び、ぼんやりと天井を眺める。

あぁ…頭が重い。

と言うか、情けない。

…二年前までは、全然平気だったことなのになぁ…。

…いや、それより自分の心境の変化に驚く。

少し前まで、俺はこうして毎日ベッドに横になって、一日中悶々と過ごしていた。

やりたいこともなければ目標も何もなく、俺の人生はもう終わりだ、とこの世を悲観していた。

それなのに、今は。

こうしてベッドで大人しくしている時間が惜しい、なんて思うようになっていた。

我ながら、よくここまで立ち直ったものだと思う。

完全に立ち直ったとは言えない。思い出したくないものの上に、綺麗なもので蓋をして、見えなくしただけ。

忘れてしまったような…振りをしているだけなのだ。

それでも、一人ベッドの上で悶々としているよりはよっぽどまし。

何かに打ち込んでいた方が、余計なことを考えなくて済む。

自分にバンドなんて、出来るとは思えないけど。

やれるだけのことはやってみようと思った。