Music of Frontier

更に、俺が練習していたのは、歩くことだけではない。




「へぇ…。これがギターですか」

ルクシーが持ってきてくれたギターを、俺はしげしげと眺めた。

「触ったこと…は、ないか。さすがに」

「…ないですね。そもそも、実物見るのも初めてです」

こういう楽器があるんだってことは、知識として知っていたが。

触るのは初めて。

今回俺が、ギターを触ることになった理由はと言うと。

それは無論、ルクシーとバンドをする為である。

現在ルクシーが所属するグループで、不足している楽器はギターだそうで。

従って、俺は歩行訓練にプラスして、ギターを弾けるようになる為、練習することにしたのである。

…とはいえ、俺はギター初心者…どころか、音楽そのものが初心者である。

帝国騎士官学校では、音楽の授業なんてないし。

その為、俺の音楽に関する知識は皆無に等しい。

「お前左利きだから、左利き用のギターと…これ、左利き用の楽譜な」

「え…。利き手によって違うんですか」

楽器に利き手が関係あったとは。そんな初歩的なことすら知らない俺である。

「左右が反対になるんだよ。慣れたら右利き用の楽譜でも弾けるようになるらしい」

「へぇ~…」

「病院だからアンプはなしだけど、まぁ基礎練にはなるだろ」

…あんぷ?暗譜?

そんなことすら知らなかった、当時のウブな俺である。

「とりあえず、まずはコードを覚えてくれ。お前頭良いから、すぐ覚えられるだろう」

こーど?

よく分からないが、何か覚えないといけないのか。

「これがコード…?」

ルクシーのくれた楽譜…もとい、コード表を手に取る。

何だこれ。楽譜っていうと、尻尾の生えたお玉じゃくしみたいなのが、五線譜を泳いでるのを想像していたのだが。

AとかCとか書いてあるんだけど。何これ?

「頭良いって言われても…そういう勉強はしてないので…」

それに、ここ二年ほど全然勉強してないのだから。

「大丈夫だ。お前は物覚えが良い」

…ルクシー、その自信は何処から。

ともかく、期待してくれているのだから頑張って覚えねば。

覚えなきゃならないことは山積みだ。

エレキギターの弾き方は勿論、楽譜の読み方、音楽記号の意味。

この世に音楽辞典なるものがあることも、初めて知った。

ルクシーは、「お前ならすぐ覚えられる」と言ったけれども。

残念ながら俺は、この手の勉強をしたことがない。

従って、全て一から学ばなければならない訳で。

おまけに、ここ二年の間ずっとぼんやり生きてきたツケが回ってきて、頭を動かすことに身体が慣れていなかった。

ほんのちょっと勉強しただけで、疲れて頭が重くなってしまう。

加えて、毎日のリハビリ。

少し前まで当たり前のように出来ていたことなのに、今の俺にとっては大変な負荷になっていた。