Music of Frontier

帝国騎士になりたいと思ってたのも、俺が選んだ訳じゃない。

ただ、それ以外の選択肢を与えられなかっただけだ。

「そうだな。ルトリア、お前は今までずっと、帝国騎士になる為に生きてきた。だから帝国騎士になれなくなった今、お前は自分が何者にもなれないと思ってるのかもしれないけど…。それは違うぞ」

「…何が?」

「お前は何にでもなれる。これから、何にでもなれるんだ。極端な話…なろうと思えば、英雄だろうがマフィアだろうが、アイドルにだってなれるんだよ。お前がそう望めば」

…そんな、馬鹿な話。

思わず失笑しようとしたところを、ルクシーは重ねて言った。

「有り得ないと思ってるだろう?でも本当のことなんだ。お前の人生は、まだ何も終わっちゃいない。むしろ今、始まったんだよ。帝国騎士にならなきゃならない、その鎖からようやく解放されたんだから」

「…!」

…鎖?

そんな風に思ったことはなかった。生まれたときから、帝国騎士になるのは当然のことで、それ以外の選択肢は考えることすら許されなかった。

それが俺にとって…鎖だったと?

「お前が望む、好きなものになれるんだ。バンドじゃなくても良い。何でも良い。立ち止まるんじゃなくて、前を向いてくれ。這いつくばってでも、転びそうになりながらでも良い。前に進んでくれ。辛いなら…俺が傍にいて、支えるから」

「…ルクシー…」

「…頼むよ」

ルクシーの、辛そうな顔。

あぁ、ルクシーはずっと、俺の為に悩んでくれてたんだなと思った。

こんな俺の為に。立ち止まって、目を閉じて、何も聞こえない振りをして、自分を憂うばかりの俺の為に。

そうだったね。あなただけは、俺をずっと見捨てないでいてくれた。

誰もが見捨て、持ち主である俺さえも捨てた俺の命を。

ルクシーだけは、拾い上げて、それを大事に守っていてくれた。

だから俺の命は、もうルクシーのものだ。

そのルクシーが、望むなら。

「…分かりました」

俺はそのとき、初めて。

帝国騎士官学校をやめさせられて以来、初めて。