Music of Frontier

結局、その日も俺はルトリアを説得することは出来ず。

溜め息が出そうになるのを堪えながら、病室を出た。

「…はぁ…」

廊下を歩きながら、俺は我慢していた溜め息を溢した。

すると。

「何だかお悩みのようだね、ルクシー君」

「あ…エインリー先生…」

顔を上げると、そこには白衣姿のエインリー先生。

「大丈夫?ルトリア君に会いに来たんだよね」

「はい…。もう、帰るところですけど…」

「そっかぁ。どう?ルトリア君の様子は」

「…以前に比べれば…ずっと良くなってますけど…」

「…そうだねぇ」

エインリー先生も苦笑いだった。

俺の言わんとすることは、彼も分かっているはずだ。

「やっぱり、リハビリはしたくないって?」

「…はい」

「ルクシー君が説得しても駄目なら、私じゃとても無理だね…」

「…」

…どうしたものか。

どうしたら、ルトリアに元気を出してもらえるのだろうか。

「…歩けるようになっても仕方ない、って言うんです。ルトリア…」

「…そうだね。そう思うのも無理はない…。何せ彼には今、目指すものが何もないのだから」

…目指すものがない、か。

その通りだ。ルトリアがあんなに無気力なのは、将来が見えないからだ。

行きたいところがあるなら。やりたいことがあるのなら…。歩けるようになりたいという意欲が生まれるだろうが。

あいつには何もない。

頑張って、たくさんリハビリして、杖をつきながらでも歩けるようになった。

それで?

それからどうするの?

目指すものが何もないのに、人間は頑張ったりしない。

試験で良い点を取りたいから、勉強する。

コンクールで優勝したいから、毎日ピアノの練習をする。

人は、何か果たしたい目標があるときに、必死に努力するものだ。

何も目指すものがないのに、努力したりなんかしない。

ルトリアには目標がない。歩けるようになった後のビジョンが何も見えない。

だから、歩けるようになっても仕方ないと思うのだ。

「何か…目標でもあれば、ルトリア君も頑張れるんだろうけど…」

「目標…」

「元気になって、歩けるようになって、やりたいことが見つかれば良いんだけどね。ルクシー君…。何か思い当たらないかな。ルトリア君が昔、やりたがってたことか。行きたがってたところとか」

「…」

…やりたいこと…行きたがってたところ。

それが見つかれば、ルトリアは意欲を取り戻すかもしれない。

そんなものがあるだろうか。帝国騎士になること以外に、自分の将来について選択肢を与えられなかったルトリアに。

生きる希望を取り戻してもらうことが、本当に出来るだろうか?

「…」

…出来るだろうか、じゃねぇ。

それを血眼になって探すのが、俺の役目だろ。

「…分かりました。ちょっと考えてみます」

「うん、ありがとう。私も考えてみるよ」

そんなものが見つかったからと言って、本当に元気になってくれる保証はない。

でも、少しでも可能性があるのなら。

手紙のときだってそうだったじゃないか。最初は駄目元だったけど、結果は上手く行った。

なら、今俺に出来るのは…エインリー先生の言葉を信じて、ルトリアの目標を考えることだ。