Music of Frontier

──────…この一年半で、ルトリアは随分良くなった。

以前は面会さえ許されなかったが、最近ではいつでも会えるようになった。

口数も増えて、普通に話せるようにもなっていた。

食事だって…俺が見てないと残すけど、俺が見張ってれば、渋々ながらでも食べるようになった。

薬もちゃんと飲むし、薬に頼りながらでも、夜もちゃんと眠っているらしい。

それは喜ばしいことだ。以前と比べれば、随分進歩した。

けれど人間というのは、我が儘な生き物で。

少し元気になったら、もう少し、もう少し、と段々欲が出てくるもので。

今の俺は、ルトリアに歩くようになるリハビリを受けさせたかった。

歩けるようになって、退院して欲しかった。

でも…こればかりは、ルトリアはなかなか首を縦に振らなかった。

「歩けるようになっても仕方ない」。

ルトリアの中には、この考えがどっしりと根付いているのだ。

…ルトリアの言い分も分かる。五体満足で、好きなように歩いたり走ったり出来る俺が何を言っても、ルトリアの心には響くまい。

お前に何が分かる、と言われれば、俺には言い返すことが出来ない。

俺も、歩くようになることは諦めても良いんじゃないか、と思うこともあった。

無理に歩かせなくても、車椅子生活でも良いじゃないか。

少なくともあいつは今、自殺しようとしたり、生きることを拒んだりはしていない。

ならば、欲をかいたりせず、現状に満足するべきではないか。

そう思うこともあった。やりたくもないことを無理矢理させて、また体調を崩したら、元も子もない。

俺は別に、ルトリアが杖をついて歩こうが、車椅子に乗ってようが、どっちでも構わない。

無事に、元気に生きててくれるのなら。

…でも。

どうしても、欲をかいてしまうのだ。

またルトリアと…肩を並べて歩きたい、と。

希望を持って生きて欲しい、と。

諦めて欲しくない、と。

それが…俺の我が儘なのだとしても。