Music of Frontier

…ルクシーには悪いけど、俺は食事の時間が苦手である。

ちゃんと食べて、人並みに太れば、ルクシーは喜んでくれると思うけど。

でも、そうなったからって、どうなるの?

何にもならないじゃないか。今更…帝国騎士にもなれないのに。

「もうそんなに動くこともないんだから…。あんまり食べなくても大丈夫なのに…」

帝国騎士を目指してるときは、身体を作らなきゃいけないから、たくさん食べさせられたものだが。

今はもうその必要もない。

小声でそう呟くと、ルクシーは顔をしかめた。

「…それなら動けば良い、ルトリア。歩く訓練しても良いって、エインリー先生が言ってただろ?」

「…歩くって…杖をつきながら、でしょう?」

「それでも、自分の足で歩けるんじゃないか。一生車椅子よりも、杖をつきながらでも歩けた方が便利で良いだろう?」

「…」

…そりゃ、便利なのは便利なのかもしれないけどさ。

自分の足で歩けたって…別に行きたいところもないし、なりたいものだってない。

「…その為に、リハビリを頑張る気にはなれません」

別にこのままで構わない。一生車椅子でも良い。

「ルトリア…。確かにリハビリは辛いと思うけど、でも、今頑張れば後々…」

「ルクシーには分からないんですよ。何にも頼らずに、自分の足で歩けるんだから」

「…」

俺はついイライラして、言ってはいけないことをルクシーに言ってしまった。

俺がそれを言えば、ルクシーは何も言えなくなる。そして、傷ついたような顔をする。

言っちゃいけないと分かってるのに、自分に不利になると、俺はどうしても、言ってしまうのだ。

自分の甘えと弱さを隠したくて、ルクシーに八つ当たりして、彼を傷つける。

これを言う度にいつも、後になって後悔する。

「…ごめんなさい。言い過ぎました」

傷ついた顔をするルクシーにハッとして、俺は目を逸らしたまま謝った。

「…いや、良いよ。俺も言い過ぎた…。ルトリアの気持ちも考えずに…。ごめんな」

「…」

…ルクシーが謝る必要なんてない。

悪いのは俺なんだから。

俺が「また歩けるようになりたい。リハビリを頑張る」と言えば、ルクシーが喜ぶのは分かっていた。

でも駄目なのだ。どうしても。

ポンコツの身体は、いくら頑張ったって、不完全なポンコツのまま。

だったら、頑張ることに意味なんてない。惨めになるだけだ。

そう、惨めになる。かつて第二帝国騎士官学校で、学年トップの成績を誇っていた人間が。

「杖をついて歩けるようになった」と喜ぶなんて。

想像しただけで、あまりの惨めさに吐き気がする。

そんなプライドが自分の中に残っているとは、我ながら厚かましいことだ。

…歩けるようになったって、仕方ない。

そう思うと、とてもリハビリを頑張ろうという気にはなれなかった。

「…」

ルクシーは、俯いたままの俺を無言で見つめていた。