Music of Frontier

「…ルトリア…」

「…」

彼はベッドの上に座る俺を見て、色んな表情が入り交じった複雑な顔をした。

俺は、そんなルクシーと目を合わせられなくて…視線を逸らした。

…罵られても、怒られても、言い返すことは出来ない。

俺は散々ルクシーに迷惑をかけたのだから。

…何と言われるだろうか、と思った。

俺は判決を待つ被告人のように、俯いたままルクシーが断罪してくれるのを待った。

すると。

「…色々…言いたいことは山ほどあるけど…」

ルクシーは、泣き笑いのような顔をして、俺の傍らに歩み寄った。

「…とにかく、無事で良かった」

「…」

「…本当、無事で良かったよ…」

心底ホッとしたような言い方。

…怒って…ない?

俺はそっと顔を上げ、ルクシーの目を見た。

怒っている様子はなかった。むしろ、安心したような…優しげな目をしていた。

「…」

怒ってないのか、とか。

今まで会わなくてごめん、とか。

言うべきことはいくらでもあるのに、どうしても言葉に出来なかった。

ルクシーはそんな俺の心情を知ってか知らずか、ベッドに腰掛けてこう言った。

「…別に良いよ、何も喋らなくても…。生きてるんだから別に良い。生きてるんだからな…」

「…」

「…なぁ、頼むから…。もう死のうとしないでくれよ。お前がどうなってても構わない。でも俺の手が届かないところで、勝手に死ぬのはやめてくれ…」

「…」

「…それだけは、頼むよ。ルトリア」

そう言うルクシーの目は、今にも泣き出しそうで。

あぁ、本当に俺、ルクシーにめちゃくちゃ心配かけてたんだな、と思った。

この瞬間、俺はもう、死ぬのはやめようと思った。

ルクシーに、二度とこんな顔をさせたくなかったからだ。

こくりと頷くと、ルクシーは満足そうに笑った。

そんなルクシーを見て、俺は酷く困惑した。

…怒ってないのだろうか。ルクシーは。

どうしてもそれを確かめたくて、俺は絞り出すように声を出した。

「…て、ます…?」

「んー?」

緊張して、上手く声が出ない。

一生懸命声を張り上げてるつもりなのに、蚊の鳴くような声しか出ないのが情けない。

「…怒って…ます…?」

「怒る…?そりゃ怒ってるよ。怒ってるに決まってるだろ?」

…やっぱり。

これだけ迷惑かけまくって、怒ってないはずがない。