Music of Frontier

朝食後、俺はエインリー先生から渡されたメモ用紙を一枚、千切った。

今日は、昨日もらったルクシーのお手紙に、返事を書くのだ。

ルクシーからの手紙は長いのに、俺の返事はメモ用紙一枚なのは申し訳ないが。

これでも、精一杯なのだ。

案の定、今朝もほとんど朝食食べられなかったし。

でもお薬はちゃんと飲んだから。

今日は一日かけて、ルクシーにお返事を書くのである。

さて…何て書いたものか。

俺はメモ用紙を前にして、鉛筆を手に取った。

ルクシーは俺のどんな言葉を求めているのかなぁ。

出来るだけ、元気になってきたよアピールをしたいところだが…。

昨日はちゃんと眠れました、とか?

今朝はちゃんとお薬飲みました、とか?

それじゃ手紙と言うより、日記だな。

でもこの狭い病室の中では、特に伝えるべきニュースもないし。

結局日記のような手紙になってしまうのだ。

それに、今の俺には難しいことは書けなかった。

書きたいことは色々あるし、これを書こう、と思い付くのだが。

いざそれを文章にしようと思うと、途端に手が止まってしまう。

おまけに、認知症患者のように、書こうと思っていたことを、鉛筆握った瞬間にド忘れしてしまうこともある。

エインリー先生に相談すると、「まだ心と身体が上手く連携してないんだね」と言われた。

成程、言われてみればその通り。

心が「○○を書こう」と思っても、身体がついていかない。

逆もまたしかり。身体は動いているつもりなのに、何を書こうとしていたのかすとーん、と抜けてしまう。

まだまだポンコツである。

お陰で、手紙を書くのに丸一日を費やしてしまう。

こんな短い手紙、以前の俺だったら5分足らずで書き終えていただろうに。

それでも、一日中空虚のままに過ごしていた頃よりは、ずっとましだった。

少なくとも、今の俺には手紙を書こうとする意欲があるのだから。