婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

「えーっと……、それだけ?」


思わず声が漏れた。優しい言葉の数々に感謝しているはずなのに、心の奥に引っかかっていた棘が、どうしても気になっていた。

 
「僕に対して……、何とも思わないの?」


みんなが静かになった。空気が、一瞬だけぴたりと止まる。

 
「……、あ、あのさ。僕のこと……、気持ち悪いとか思わない?」

 
自分でも情けないとは思っている。けれど、どうしても聞かずにはいられなかった。


ピーターズファミリーを集めている“アラサー男”。そんな自分が、世間的にどう見られるのか、心のどこかでずっと怯えていた。

 
花村姉妹の二人は、そろってキョトンとした顔で僕を見ている。……、なんだか拍子抜けするくらいの表情だった。

 
その隣で、美愛ちゃんは、僕がさっき出したぬいぐるみ、ウィルとラーラをぎゅっと抱きしめたままだ。


……、あの、念のため言っておくけど、それ、僕のなんだけど……?

 
「えっ? 何で?」


葉子ちゃんが首をかしげる。


「あたしも美愛も、そんなふうに思わないよ」

「だ、だって……、アラサーの男が、ピーターズファミリーが好きで、ぬいぐるみを集めてるって……」


しどろもどろになりながら続けると、葉子ちゃんが鋭く返してきた。

 
「じゃあ、大和さんは“男なのに”料理上手な仁のこと、気持ち悪いって思うの?」

「えっ、それは全然そんなこと……!」

「じゃあ、“女なのに”料理できないあたしのことは?」

「……、それも、まったく思ってないよ!」

 
慌てて首を横に振る。二人に対して、そんな風に思ったことなんて一度もない。

 
「だったら、自分のことだけ特別に変だなんて思わないでよ」


葉子ちゃんの言葉は、まっすぐで温かかった。

 
「ピーターズファミリーが好きで、大和さんが幸せなら、それでいいんじゃない?ちっとも、おかしくなんかないよ」

 
その言葉に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

 
すると、ぬいぐるみを大事そうに抱きしめていた美愛ちゃんが、そっと僕を見上げた。

 
「あ、あ、あのね、大和兄さま……」

 
まるで子供の頃に戻ったような、あどけない声。けれど、その目は真剣で、まっすぐだった。

 
だ、だめだよ。
ぬいぐるみは譲れない。
いくら美愛ちゃんでも、それは僕の大切な……!

 
「もしよければ、大和兄さまのピーターズファミリーコレクション、見せて欲しいの」

 
……、え?

 
その言葉に、僕は一瞬返事ができなかった。


戸惑っている僕を見て、雅と仁が穏やかに微笑む。まるで『大丈夫、全部受け入れるから』と言ってくれているような優しいまなざしだった。

 
まだ一抹の不安はあった。けれどこの人たちなら、見せてもいいかもしれない。

 
僕は静かに立ち上がり、リビングの奥へと歩き出した。


ある意味、誰にも見せたことのない“秘密の部屋”。


鍵を取り出し、ゆっくりとドアノブに差し込む。

 



カチリ──という音と共に、僕は小さく息を吐いた。そして、意を決してドアを開ける。

 
そこは、僕の“本当の好き”が詰まった場所だった。