圭衣ちゃんに合鍵を返したあと、僕は実家へ行き、両親と兄の悠士に彼女との別れを報告した。
圭衣ちゃんを烏丸家に迎えることを、心から楽しみにしていた父さんと母さんは、深く残念がっていた。そして、僕が今も圭衣ちゃんを想っていることも、言葉にしなくても伝わっているのだろう。けれど、二人ともそのことには触れず、ただ静かに話を聞いてくれた。
その後、雅と美愛ちゃん、仁と葉子ちゃんの夫婦が、よく夕飯に誘ってくれるようになった。“気晴らしにどう?”なんて言いながら、気を遣わせてしまっているのが申し訳ない。
それでも別れたあとも、変わらず僕に優しく接してくれる花村姉妹には、感謝しかない。
彼女たちに会うたび、圭衣ちゃんのことをさりげなく尋ねる。でも、日が経つごとに返ってくる言葉は歯切れが悪くなっていった。
そしてある日、雅と仁がこっそり教えてくれた。
今の花村家では、週に一度、みんなでブランチをするのが恒例になっている。僕もかつて、何度かその場に招かれていた。家族間の連絡にはグループLIME(ライム)を使っていて、出欠確認や予定共有もそこで行われていた。
けれど、僕たちが別れたその週末、圭衣ちゃんだけを除いた「新しいグループLIME」が、ご両親の主導で作られたという。
葉子ちゃんと美愛ちゃんがそのことを不審に思い、ご両親に理由を尋ねたそうだ。しかし返ってきたのは、はぐらかされるような曖昧な返答ばかり。
それどころか、ご両親は明らかに圭衣ちゃんの話題を避けるようになっていたという。
それだけじゃない。葉子ちゃんも美愛ちゃんも『圭衣ちゃんに、なぜか距離を取られている気がする』とこぼしていた。
……、圭衣ちゃん、大丈夫かな?
一体、何があったんだろう?
心配と、焦りと、どうしようもないもどかしさが胸を満たしていく。
不可解なことはもうひとつある。それは僕の兄、烏丸悠士のこと。
僕たち兄弟は、決して仲が悪いわけじゃない。ただ、毎日頻繁に連絡を取り合うようなタイプでもなかった。
用事があるときに連絡をして、必要があれば会う。そんな“大人の兄弟”って距離感だった。
それが、圭衣ちゃんと別れてからというもの兄ちゃんのほうから、やたらと連絡が来るようになった。
しかも、ただの世間話だったり、僕の近況を聞くだけだったり。何かを探ってるわけでもなければ、相談がある風でもない。
それが、逆に妙だった。
悠士兄ちゃん、どうしちゃったんだ?
はっきりとした理由はわからないけれど、
胸の奥に、漠然とした“違和感”が積もっていく。
何かが壊れかけている気がする。
その原因が、自分と圭衣ちゃんに関係しているような、そんな予感がした。
でも、まだその正体は、霧の中だった。
圭衣ちゃんを烏丸家に迎えることを、心から楽しみにしていた父さんと母さんは、深く残念がっていた。そして、僕が今も圭衣ちゃんを想っていることも、言葉にしなくても伝わっているのだろう。けれど、二人ともそのことには触れず、ただ静かに話を聞いてくれた。
その後、雅と美愛ちゃん、仁と葉子ちゃんの夫婦が、よく夕飯に誘ってくれるようになった。“気晴らしにどう?”なんて言いながら、気を遣わせてしまっているのが申し訳ない。
それでも別れたあとも、変わらず僕に優しく接してくれる花村姉妹には、感謝しかない。
彼女たちに会うたび、圭衣ちゃんのことをさりげなく尋ねる。でも、日が経つごとに返ってくる言葉は歯切れが悪くなっていった。
そしてある日、雅と仁がこっそり教えてくれた。
今の花村家では、週に一度、みんなでブランチをするのが恒例になっている。僕もかつて、何度かその場に招かれていた。家族間の連絡にはグループLIME(ライム)を使っていて、出欠確認や予定共有もそこで行われていた。
けれど、僕たちが別れたその週末、圭衣ちゃんだけを除いた「新しいグループLIME」が、ご両親の主導で作られたという。
葉子ちゃんと美愛ちゃんがそのことを不審に思い、ご両親に理由を尋ねたそうだ。しかし返ってきたのは、はぐらかされるような曖昧な返答ばかり。
それどころか、ご両親は明らかに圭衣ちゃんの話題を避けるようになっていたという。
それだけじゃない。葉子ちゃんも美愛ちゃんも『圭衣ちゃんに、なぜか距離を取られている気がする』とこぼしていた。
……、圭衣ちゃん、大丈夫かな?
一体、何があったんだろう?
心配と、焦りと、どうしようもないもどかしさが胸を満たしていく。
不可解なことはもうひとつある。それは僕の兄、烏丸悠士のこと。
僕たち兄弟は、決して仲が悪いわけじゃない。ただ、毎日頻繁に連絡を取り合うようなタイプでもなかった。
用事があるときに連絡をして、必要があれば会う。そんな“大人の兄弟”って距離感だった。
それが、圭衣ちゃんと別れてからというもの兄ちゃんのほうから、やたらと連絡が来るようになった。
しかも、ただの世間話だったり、僕の近況を聞くだけだったり。何かを探ってるわけでもなければ、相談がある風でもない。
それが、逆に妙だった。
悠士兄ちゃん、どうしちゃったんだ?
はっきりとした理由はわからないけれど、
胸の奥に、漠然とした“違和感”が積もっていく。
何かが壊れかけている気がする。
その原因が、自分と圭衣ちゃんに関係しているような、そんな予感がした。
でも、まだその正体は、霧の中だった。



