第3候補の物件がダメになった翌日の会社帰り。どこか気が抜けたような足取りで駅へ向かっている。
「よう、圭衣。今帰りか?」
いきなり懐かしい声が耳に飛び込んできた。
思わず振り向くと、そこに立っていたのは
182センチの高身長。肩までの緩いウェーブがかった黒髪を無造作に結び、デニムに白いTシャツ、サングラスをかけたラフな格好の紫道。
まるで、どこかの雑誌から抜け出してきたかのような佇まいに、周囲の人たちが何気なく視線を送っている。
紫道とは、アメリカの大学で出会った。
専攻は同じデザインで、最初の課題でたまたまチームを組んだのがきっかけだった。話してみるとすぐに意気投合して、それからは自然といつも一緒に行動するようになった。
紫道は大学での学びと並行して、宝石店を営む“お師匠さん”のもとでジュエリーの知識を深め、卒業後も数年間その師のもとで修行を重ねていた。
そして帰国後、自分の工房を構え、ホテル9(クー)の中に小さなジュエリーショップをオープンさせた。
私にとって、紫道は兄のような存在。巷では『男女の友情なんて成立しない』なんて言われたりもするけど、私たちの間には一度も恋愛感情が芽生えたことはない。
だって、彼の恋愛対象は男性だから。
その紫道の元カレは、美愛と雅さんの婚約を危機に追い込んだ張本人、いより。このことがきっかけで、紫道はいよりと別れることになった。
紫道は、私の“秘密”を唯一知っている存在でもある。でも彼はそのことを一切茶化したり、否定したりしない。むしろ、私が好きなことに夢中になっている姿を見て、いつも背中を押してくれた。
日本に拠点を戻すことを最初に勧めてくれたのも、紫道だった。
『家族がいるって、きっと大事だよ』
『ピーターズファミリーにもっと関われるし、ガーリー系の服もアメリカより身近だろ?』
そんなふうに、真剣に説得してくれたときの言葉が、今でもふと心に蘇る。
私も、紫道が男性を恋愛対象にしていることは、出会ってすぐに気づいていた。どこか繊細で、優しくて、人の痛みに寄り添える人。
私は、そういう彼の人柄に惹かれて、友人としてずっと好きだった。
だから、どんな性の在り方であろうと─私には関係なかった。
いつしか、私たちは“誕生日が同じ”という奇
跡に驚きながらも、双子の兄妹のような関係になっていった。
今は同じ都内、ミッドタウンに拠点を置きながら、それぞれ仕事とプライベートに追われる日々。アメリカ時代のように頻繁には会えなくなってしまったけれど─。
たしか、最後に会ったのは、美愛ちゃんと雅さんの話し合いのときだったかな。
あの日の紫道も、変わらず優しくて頼もしくて久しぶりに会えたことが、心の奥で、じんわりと嬉しかった。
「よう、圭衣。今帰りか?」
いきなり懐かしい声が耳に飛び込んできた。
思わず振り向くと、そこに立っていたのは
182センチの高身長。肩までの緩いウェーブがかった黒髪を無造作に結び、デニムに白いTシャツ、サングラスをかけたラフな格好の紫道。
まるで、どこかの雑誌から抜け出してきたかのような佇まいに、周囲の人たちが何気なく視線を送っている。
紫道とは、アメリカの大学で出会った。
専攻は同じデザインで、最初の課題でたまたまチームを組んだのがきっかけだった。話してみるとすぐに意気投合して、それからは自然といつも一緒に行動するようになった。
紫道は大学での学びと並行して、宝石店を営む“お師匠さん”のもとでジュエリーの知識を深め、卒業後も数年間その師のもとで修行を重ねていた。
そして帰国後、自分の工房を構え、ホテル9(クー)の中に小さなジュエリーショップをオープンさせた。
私にとって、紫道は兄のような存在。巷では『男女の友情なんて成立しない』なんて言われたりもするけど、私たちの間には一度も恋愛感情が芽生えたことはない。
だって、彼の恋愛対象は男性だから。
その紫道の元カレは、美愛と雅さんの婚約を危機に追い込んだ張本人、いより。このことがきっかけで、紫道はいよりと別れることになった。
紫道は、私の“秘密”を唯一知っている存在でもある。でも彼はそのことを一切茶化したり、否定したりしない。むしろ、私が好きなことに夢中になっている姿を見て、いつも背中を押してくれた。
日本に拠点を戻すことを最初に勧めてくれたのも、紫道だった。
『家族がいるって、きっと大事だよ』
『ピーターズファミリーにもっと関われるし、ガーリー系の服もアメリカより身近だろ?』
そんなふうに、真剣に説得してくれたときの言葉が、今でもふと心に蘇る。
私も、紫道が男性を恋愛対象にしていることは、出会ってすぐに気づいていた。どこか繊細で、優しくて、人の痛みに寄り添える人。
私は、そういう彼の人柄に惹かれて、友人としてずっと好きだった。
だから、どんな性の在り方であろうと─私には関係なかった。
いつしか、私たちは“誕生日が同じ”という奇
跡に驚きながらも、双子の兄妹のような関係になっていった。
今は同じ都内、ミッドタウンに拠点を置きながら、それぞれ仕事とプライベートに追われる日々。アメリカ時代のように頻繁には会えなくなってしまったけれど─。
たしか、最後に会ったのは、美愛ちゃんと雅さんの話し合いのときだったかな。
あの日の紫道も、変わらず優しくて頼もしくて久しぶりに会えたことが、心の奥で、じんわりと嬉しかった。



