婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

ただ、部屋探しは、思った以上に難航していた。


希望条件である場所、部屋数、家賃は明確だった。事前に不動産会社の下調べも済ませ、九条不動産系列ではないことをしっかり確認している。実際に店舗を訪れる際も、内見の前に改めて「どこの系列なのか」を確認する徹底ぶりだった。


いくつか良さそうな物件があり、不動産屋と共に内見にも出向いた。第1候補は、内見直後にその場で申し込みを済ませた。だが帰りの車の中で、ふと届いた1通のメールに目を疑う。


『先ほどのお部屋は、すでに別の方に決まりました』


おかしい。
不動産屋に『まだ審査には出ていない』と確認した直後だったはず。誰も押さえていないとあのとき、確かにそう言ったのに。


気を取り直して、第2候補、第3候補も内見し、続けて申し込んだ。だが、今度はさらに不可解な事態が待ち受けていた。


「オーナーの気が変わった」
「手違いで、実は空室ではありませんでした」


そんなことが、3件続けて起こるだろうか?


偶然にしては出来すぎている。意図的に何かが妨げられているような、そんな不気味な感覚が背筋を這う。


不動産屋の系列は事前に徹底的に調べてあった。慶智の王子たちと、もう関わりたくなかったから。


なのに、どうして?


いったい誰が、どこで、何をしている?

 
そんな疑問が頭の中をぐるぐると渦巻く。
けれど、問いをぶつける相手もいない。


気がつけば、心が真っ白になっていた。不安も怒りも、やがてすべてが、虚無に呑まれていく。


誰かに聞いてほしかった。この、胸の奥に押し込めていた叫びを。けれど、現実の私は、もう誰にも頼れない場所にいた。

 
静かすぎる部屋の中で、時計の針だけが、冷たく時を刻んでいた。