婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

新しい契約はもちろん嬉しい。


けれど、どうしてもどこかで引っかかる。
まるで、葉子の手のひらの上で転がされているような気がしてならなかった。


これでしばらくは、仕事を辞めるわけにもいかなくなった。


……、じゃあ、引っ越しは?


うーん。コラボ企画とピーターズファミリークラブの衣装案件、どちらも対面でのミーティングは必須になるだろう。ミーティングのたびに飛行機で東京に戻ってくるのは現実的じゃない。

 

今のマンションには、彼との思い出がたくさん詰まっている。


同棲はしていなかった。でも、彼は可能な限りこの部屋に来てくれて、料理を作ってくれて、何気ない時間を一緒に過ごしてくれた。


彼の私物は残っていない。けれど、部屋の空気そのものが、彼との思い出で満ちている。

 
もうすぐ契約更新の時期だし、新しい物件を探そうか。


……、いっそのこと、実家と正反対の方角にある東京近郊にしようかな。

 
それに、あまり遠くへ行きすぎると年に四回開催されるピーターズコンベンションにも参加しにくくなる。

 
そういえばもう、あの高飛車キラリにイラつく必要もなくなるんだ。


大和と別れて数日後、パステルピーターズのミッシェルちゃんからメッセージが届いた。内容は……、キラリがクラブから“永久除名”になったというものだった。


詳細は不明。でも、もうどうでもいい。あの子の顔を見ることもない。心底、せいせいした。





……、ただ、それ以外のこと。


大和のこと、そして花村の実家のことを思い出すと、今でもじんわり腹が立つ。

 
あの日、大和に合鍵を返した翌日、私は実家に手紙を置きに行った。


彼のことを気に入って、婿入りすることを心から喜んでくれていた両親に別れたことを、きちんと伝えるためだった。


たまたま父さまが家にいて、帰り際に私にこう言った。


「大和君と烏丸家のみなさんに、お礼を言いなさい。彼は君を守ってくれたからね」

 
……、それを聞いた瞬間、胸の奥にチクリとした苛立ちが走った。


守ってくれた? なにから? どうして? 何を知っていて、何を知らされていないのか。


私には、何も説明がなかった。何一つ聞かされていないまま、物事だけが進んでいた。


私が直接関わっていたことのはずなのに、気づけば、他人の手で全てが決められていた。


その件がどうなったのかも、結局、私は知らないままだ。

 
そして、あの日手紙を置いて以降両親からは一度も、電話も、メッセージもない。


……、ああ、やっぱり。母さまとは、どうしても、分かり合えない。