週末の今日、雅と美愛は、仁の実家の敷地内にあるモダンな離れを訪れていた。葉子と仁の双子の赤ちゃんたちは、本宅で仁の両親が面倒を見てくれている。
お互いの夫には、それぞれ「遊びに行く」「遊びに来る」としか伝えていない。目的はあくまでも“水面下での会談”だ。
コンパクトキッチンでは、仁と雅が雑談を交わしながらコーヒーを淹れている。その様子を横目に、美愛はリビングで焼きたてのりんごのシュトゥルーデルを切り分け、お皿に取り分けていた。
そんな美愛に、隣から葉子がそっと囁きかける。
「ねえ、この話し合い、あたしに任せてくれる? 絶対に悪いようにはしないし、圭衣のことは絶対に裏切らないから」
人見知りで口下手な美愛は、黙って頷いた。それが葉子への信頼の証だった。葉子が話すあいだ、自分は雅と仁の様子を観察しておくことにする。
ほどなくしてコーヒーが運ばれ、4人がリビングのソファに揃った。葉子と美愛は隣同士、向かいには仁と雅が座る。しばし和やかに、焼き菓子とコーヒーの香りに包まれた時間が流れる。
しかしその空気を破ったのは、葉子の切り出しだった。
「実は、雅さんと仁に話し合いたいことがあるの。もう、だいたい分かってると思うけど──」
「おい、俺たちは仲間を売り渡すような真似はしねぇからな!」
言い終わる前に、仁が苛立ちを隠さず声を荒げた。
花村三姉妹と“慶智の王子”たちの間には、お互いの家族や仲間について深入りしないという暗黙のルールがある。誰かを守るため、誰かの秘密を守るために。
突然の仁の剣幕に、美愛は驚いて肩を震わせた。葉子はすぐに彼女の手を握って安心させると、仁に鋭い視線を送る。
「ちょっと、美愛が怖がってるじゃない! あんた、いい年して落ち着きなさいよ。この大人子供のがき大将、エセ王子が!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
苦笑いを浮かべた雅が、間に入って場をなだめる。
「まずは葉子ちゃんの話を聞こうよ」
険悪になりかけた空気が和らぎ、仁もようやく静かに息をついた。そして、葉子の目を見て、言葉を待つ態勢に入る。
お互いの夫には、それぞれ「遊びに行く」「遊びに来る」としか伝えていない。目的はあくまでも“水面下での会談”だ。
コンパクトキッチンでは、仁と雅が雑談を交わしながらコーヒーを淹れている。その様子を横目に、美愛はリビングで焼きたてのりんごのシュトゥルーデルを切り分け、お皿に取り分けていた。
そんな美愛に、隣から葉子がそっと囁きかける。
「ねえ、この話し合い、あたしに任せてくれる? 絶対に悪いようにはしないし、圭衣のことは絶対に裏切らないから」
人見知りで口下手な美愛は、黙って頷いた。それが葉子への信頼の証だった。葉子が話すあいだ、自分は雅と仁の様子を観察しておくことにする。
ほどなくしてコーヒーが運ばれ、4人がリビングのソファに揃った。葉子と美愛は隣同士、向かいには仁と雅が座る。しばし和やかに、焼き菓子とコーヒーの香りに包まれた時間が流れる。
しかしその空気を破ったのは、葉子の切り出しだった。
「実は、雅さんと仁に話し合いたいことがあるの。もう、だいたい分かってると思うけど──」
「おい、俺たちは仲間を売り渡すような真似はしねぇからな!」
言い終わる前に、仁が苛立ちを隠さず声を荒げた。
花村三姉妹と“慶智の王子”たちの間には、お互いの家族や仲間について深入りしないという暗黙のルールがある。誰かを守るため、誰かの秘密を守るために。
突然の仁の剣幕に、美愛は驚いて肩を震わせた。葉子はすぐに彼女の手を握って安心させると、仁に鋭い視線を送る。
「ちょっと、美愛が怖がってるじゃない! あんた、いい年して落ち着きなさいよ。この大人子供のがき大将、エセ王子が!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
苦笑いを浮かべた雅が、間に入って場をなだめる。
「まずは葉子ちゃんの話を聞こうよ」
険悪になりかけた空気が和らぎ、仁もようやく静かに息をついた。そして、葉子の目を見て、言葉を待つ態勢に入る。



