一方その頃、美愛はリビングで、夫の雅と共にくつろいでいた。いつもの穏やかな時間。だが、その空気が、スマートフォンの着信音ひとつで一変する。
圭衣からのメッセージは、たった一言だった。
『完全に終わった』
血の気が引いた美愛は、慌てて自室へ駆け込む。震える指で何度も電話をかけ、メッセージを送るも、どれもつながらない。
不安と焦りの中、葉子に連絡を取り、少しだけ言葉を交わしたあと、再びリビングに戻る。けれど、そこに雅の姿はなかった。
代わりに、コーヒーテーブルの上に一枚のメモが置かれている。
『バーVIPから連絡あり。大和、ウイスキー飲みすぎ。迎えに行ってくる』
10階──VIPラウンジは、このマンションの特別階。酒に弱い大和がウイスキーを無茶飲みしていると聞き、雅は急いで向かったらしい。
数分後、美愛のスマートフォンに雅からのメッセージが届いた。
『大和、かなり酔ってる。今夜はうちで休ませる』
同じマンションに住んでいるとはいえ、放っておける状態ではないのだろう。
やがて、雅が大和を伴って帰ってきた。雅の腕には、大きな段ボール箱が抱えられている。
ふらつきながらも意識はある大和が、美愛に頭を下げた。
「美愛ちゃん、ごめん。本当にごめん……圭衣ちゃんのことも、全部……」
何度も謝罪の言葉を繰り返す大和と、雅が抱える段ボール箱。その光景を見た瞬間、美愛は悟った。圭衣の言った『完全に終わった』の意味を。
裏切りたくはない。姉の圭衣を、誰よりも尊敬しているから。
でも……。
胸が締めつけられる。美愛がこの会社に入るきっかけをくれたのは、大和だった。就職面接のとき、緊張してうまく話せなかった美愛に対して、大和は丁寧に耳を傾け、誠実に対応してくれた。
そして、かつて根も葉もない社内メールのせいで美愛が誤解されたとき、誰よりも先に味方になってくれたのも大和だった。社長である雅や、弁護士の涼介を、はっきり叱ってくれた。
今、目の前で傷つきながらも謝っている彼を、無視なんてできない。
美愛の中で、姉への想いと恩義のはざまで、静かな揺れが始まっていた。
圭衣からのメッセージは、たった一言だった。
『完全に終わった』
血の気が引いた美愛は、慌てて自室へ駆け込む。震える指で何度も電話をかけ、メッセージを送るも、どれもつながらない。
不安と焦りの中、葉子に連絡を取り、少しだけ言葉を交わしたあと、再びリビングに戻る。けれど、そこに雅の姿はなかった。
代わりに、コーヒーテーブルの上に一枚のメモが置かれている。
『バーVIPから連絡あり。大和、ウイスキー飲みすぎ。迎えに行ってくる』
10階──VIPラウンジは、このマンションの特別階。酒に弱い大和がウイスキーを無茶飲みしていると聞き、雅は急いで向かったらしい。
数分後、美愛のスマートフォンに雅からのメッセージが届いた。
『大和、かなり酔ってる。今夜はうちで休ませる』
同じマンションに住んでいるとはいえ、放っておける状態ではないのだろう。
やがて、雅が大和を伴って帰ってきた。雅の腕には、大きな段ボール箱が抱えられている。
ふらつきながらも意識はある大和が、美愛に頭を下げた。
「美愛ちゃん、ごめん。本当にごめん……圭衣ちゃんのことも、全部……」
何度も謝罪の言葉を繰り返す大和と、雅が抱える段ボール箱。その光景を見た瞬間、美愛は悟った。圭衣の言った『完全に終わった』の意味を。
裏切りたくはない。姉の圭衣を、誰よりも尊敬しているから。
でも……。
胸が締めつけられる。美愛がこの会社に入るきっかけをくれたのは、大和だった。就職面接のとき、緊張してうまく話せなかった美愛に対して、大和は丁寧に耳を傾け、誠実に対応してくれた。
そして、かつて根も葉もない社内メールのせいで美愛が誤解されたとき、誰よりも先に味方になってくれたのも大和だった。社長である雅や、弁護士の涼介を、はっきり叱ってくれた。
今、目の前で傷つきながらも謝っている彼を、無視なんてできない。
美愛の中で、姉への想いと恩義のはざまで、静かな揺れが始まっていた。



