婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

商店街を抜けて住宅街に入り、クリニックの裏手にある自宅の引き戸を、なるべく音を立てないようにそっと開けた。


この時間、母さまはまだクリニックで診察中のはず。誰もいない家なのに、まるで門限を破った中学生に戻ったみたいに、どこか気が引ける。


キッチンへ向かい、焼きそば三人前のうち二つをお仏壇にお供えし、静かに手を合わせてご挨拶する。残りの一パックをキッチンカウンターへ持っていき、温かいうちにいただいた。


母さまが昼食を取りに戻る前に、家を出なきゃ。


箸を止め、伝言用のメモ用紙を引き寄せる。筆跡がぶれないよう、気持ちを落ち着けてペンを走らせた。


・焼きそば2パック、夕飯にでも食べて。もんじゃ屋のおばちゃんにもらったよ。
・封筒に入っている手紙は、できれば夕飯後に2人で読んで。


書き終えたメモの横に、封筒をそっと置く。少しだけ深呼吸し、気持ちを整える。


母さまが戻る前に片付けてしまおうと、立ち上がったちょうどその時──
家のどこかでドアの開く音がした。


「えっ……、母さま?」


違う。今の音は、クリニックとつながっている廊下のドアでも、玄関の引き戸でもない。


……、誰かが、家の中にいる?


一瞬、体が固まる。動けない。胸がドクドクと早鐘のように鳴る中、キッチンの入り口から、懐かしい笑顔が現れた。


「Hi, my sweet firecracker(やあ、爆竹ちゃん)!……、どうした、圭衣?」

「っ……、父さま!? びっくりした、もう! なんで家にいるのよ!」

「驚かせちゃったね。ごめんごめん。今日はね、仕事を休みにしたんだ」


父さまはすでにメモを読んだらしく、焼きそばのお礼を言ってくれた。母さまの診察が終わる頃を見計らって、お昼の支度をしに来たのだという。


相変わらず、ラブラブすぎるんだから。


「それじゃあ、私は出るね」


軽く手を振って、家を出る。帰ってきた時と同じように、引き戸をそっと静かに閉めた。