婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

商店街の空気に包まれながら、ぼんやりと昔を思い返していると鉄板の向こうから、じゅうじゅうと香ばしい音が響きはじめた。


「圭衣ちゃん、これ食べていきな」


にっこり笑ったおばちゃんが、子供もんじゃを焼きながら、瓶入りのオレンジジュースを手渡してくれる。


「焼きそばは今、奥で用意してるからね」


思わず驚いてしまったけれど、その温かさに胸がじんとする。


何だか、小学生の頃とまったく同じだ。


あの日も、私はここに来たんだった。お気に入りの、フリルのついたワンピースを着て行った日。


「おまえって、背が高いからさ、そういう服……、似合わないよな」


何気なく放たれた男の子の言葉。教室に響いたその声が、頭の中に何度も何度も反響して、胸の奥がじんじんと痛んだ。


決して、仲間外れにされたわけじゃない。
女子の友達には「かわいい!」って褒めてもらっていたし、私はちゃんと、クラスの輪の中にいた。


でも、その一言がどうしても頭から離れなかった。誰にも見せなかったけれど、家に帰ってから服を脱いで、鏡の前でそっと涙を流した。その日を境に、私は“かわいい”をやめたんだ。


だから今、こうして鉄板の前で湯気を立てる子供もんじゃを見ていると、あの時の私に『そのままでいいよ』って、そっと言ってくれているような気がする。


少量のキャベツと揚げ玉が入った、シンプルだけど懐かしい味。ほっこりして、なんだか泣きたくなるような……、そんな味だった。


よく大好きだったおじいちゃまと一緒に食べたっけ。変わらないな、ずっとこのままなんだな、ここの味は。


私は、今までに何度このお店に救われただろう?


いや──このお店だけじゃない。ここの商店街のみんなや、近所の人たちのさりげない優しさが、どれほど私を支えてくれたか分からない。


悲しい日も、寂しい日も、辛い日も。誰かが何かを察するように、いつもより明るい声で挨拶してくれたり、帰り際にコロッケを一つ多くくれたり。そんな何気ない気遣いが、どれだけ嬉しかったか。


おばちゃんだってそうだ。
今日だって何も聞かずに、ただ子供もんじゃを焼いてくれる。


気づけば、気持ちがほんの少しだけ、軽くなっていた。


焼きそばも出来上がり、お会計をしようとレジに向かうとおばちゃんは、首を振ってニッコリ笑った。


「いいのよ、たまにはおまけ。今日の圭衣ちゃんは、ちょっとだけ元気が足りてないみたいだからさ」


そのひと言が、胸の奥の何かを静かに溶かしていく。私は、ぺこりと頭を下げて店をあとにした。


どこか、少しだけ気持ちが軽くなっていた。