婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

出かける準備を整え、ふとスマートフォンを手に取ると、葉子と美愛からの大量のメッセージが届いていた。けれど……、大和からは、1件もなかった。


……、当たり前だよね。連絡なんて、来るはずがない。そうなるように仕向けたのは、この私だ。なのに、どこかで期待していた自分に、呆れる。


葉子からは、今週いっぱいの休暇を了承するメッセージと、来週月曜日に改めて話し合おうという連絡があった。その最後に添えられていたひと言──


『逃げるなよ』


思わず、くすりと笑ってしまった。だって──妊娠が分かったとき、真っ先に逃げたのは葉子じゃない。仁さんからも、家族からも、仕事からも。全く、どの口が言ってるんだか。でも……、そんなふうに即決して行動できるところ、正直、うらやましい。


一方、美愛からは、私の体調を気遣う優しい言葉が並び、最後に気になる一文が添えられていた。

『大和兄さま、バーVIPでウイスキーを飲みすぎて雅さんに連絡があったの。今夜はうちに泊まることになったよ。雅さんが大きな段ボール箱を抱えて酔っ払った大和兄さまと帰ってきた。一体何があったの?』


……、ウイスキー? あの大和が? お酒に強くないくせに、よりによってウイスキーなんて……。何してんのよ……、って、もう関係ないでしょ。私には。心配なんて、してない。……、してないつもりなのに。





普段なら車で帰る実家も、今日はあえて地下鉄を使うことにした。


自分だけの空間にいると、考えたくないことが頭をよぎる。運転に集中なんて、きっとできない。事故でも起こしたら洒落にならないし、安全を考えれば電車一択だった。


ラッシュは過ぎていて、タイミング良く空いた席に座ることができた。けれど……、失敗だったかもしれないと思った。地下鉄の窓の外は、当然ながら暗いまま。流れる景色もなければ、気を紛らわせる何かもない。


余計なことを考えるには、うってつけの環境。


スマホでもいじって気分転換しようとしたそのとき、通知ランプが点滅しているのに気づく。


差出人は──ピーターズファミリーの販売元。30周年記念で、メインキャラクターの「ウィル」と「ラーラ」のぬいぐるみを抽選販売するという。頭から足まで45センチのビッグサイズで、座るポーズも可能らしい。


……、なにそれ、可愛い。思わず、その場でポチッと抽選に申し込んでしまった。


当たったら、洋服を作ってあげようかな。
レースのスモックに、サテンのリボン。ピンタック入りの白いワンピースもいいかも。頭の中でデザインを思い描いているうちに、心の奥に澱んでいた重さが、少しだけ晴れた気がした。


ちょうどその時、電車が目的の終点駅に滑り込んできた。