東京を離れよう。遠くに行って、ひとりで生きていこう。
結婚しなくても、別にいいんじゃないか──
そう考えるようになったのは、元彼の“本性”を見てしまったからだった。
翔吾。同い年の彼とは、アメリカの大学で出会った。勉強に苦戦していた彼に頼まれて家庭教師をしたのが、付き合うきっかけだった。
彼の家族は、父親の仕事で高校時代からアメリカに住んでいて、大学を卒業すると同時に日本へ帰国。私たちはしばらく遠距離恋愛を続けていた。
その後、私が会社を立ち上げた年──
父さまがHope Medical Japanの社長に就任し、母さまと日本の大学へ通うことになった美愛が日本へ戻ってきた。私はアメリカの大学に進学していた葉子と一緒に、一時帰国しておじいちゃまに会いに行った。
そのタイミングで、翔吾の家族からパーティーの招待を受けた。けれど招待されたのは私と美愛だけ。葉子は『養女だから』という理由で、呼ばれなかった。
そんな考え方をする人たちとは、即座に縁を切った。私にとって、葉子は大切な妹──家族なのだから。
正直、別れてもまったく悲しくはなかった。むしろ、気分がすっきりしたくらい。付き合っていく中で、翔吾とその家族が見せる“人を見下す態度”が、だんだんと鼻についていた。
しかも、彼は私の会社の運営にまで口を出し始めた。そんな人に、私の人生を語られたくない。なにより──私の大切な家族を軽んじるような人とは、一緒にいられない。
あぁ、結婚って、難しいな。
いくら付き合っていても、その人の本性を見抜くのは簡単じゃない。
だから、大和に会うまではずっと、
『私は結婚しない。気ままに一人で生きていこう』と決めていた。今また、その原点に戻っただけのこと。
……、なのに。
なのに、まだ私は大和のことを考えてしまう。特に──部屋の中にある彼の私物を目にしたとき、気持ちが揺らぐ。
荷物を送り返そう。
そして、大和の部屋の鍵も──。
駅に着き、マンションまでの道を足早に歩く。確か冷蔵庫には、まだビールが残っていたはず。今夜はコンビニには寄らず、そのまま帰ろう。
鍵を開けて玄関を開けると、部屋の中には灯りがついていた。
「あれ……? また、電気、消し忘れた?」
そう呟いて、苦笑しながら廊下を進む。
キッチンとリビングのドアに近づいたとき、ふわりと香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「もしかして……、美愛ちゃん、何か作り置きしてくれたのかな?」
そんなことを思いながら、ふと考える。
──いや、でも、玄関に靴なんてあったっけ?
記憶が曖昧なまま、ドアに手をかけた。
結婚しなくても、別にいいんじゃないか──
そう考えるようになったのは、元彼の“本性”を見てしまったからだった。
翔吾。同い年の彼とは、アメリカの大学で出会った。勉強に苦戦していた彼に頼まれて家庭教師をしたのが、付き合うきっかけだった。
彼の家族は、父親の仕事で高校時代からアメリカに住んでいて、大学を卒業すると同時に日本へ帰国。私たちはしばらく遠距離恋愛を続けていた。
その後、私が会社を立ち上げた年──
父さまがHope Medical Japanの社長に就任し、母さまと日本の大学へ通うことになった美愛が日本へ戻ってきた。私はアメリカの大学に進学していた葉子と一緒に、一時帰国しておじいちゃまに会いに行った。
そのタイミングで、翔吾の家族からパーティーの招待を受けた。けれど招待されたのは私と美愛だけ。葉子は『養女だから』という理由で、呼ばれなかった。
そんな考え方をする人たちとは、即座に縁を切った。私にとって、葉子は大切な妹──家族なのだから。
正直、別れてもまったく悲しくはなかった。むしろ、気分がすっきりしたくらい。付き合っていく中で、翔吾とその家族が見せる“人を見下す態度”が、だんだんと鼻についていた。
しかも、彼は私の会社の運営にまで口を出し始めた。そんな人に、私の人生を語られたくない。なにより──私の大切な家族を軽んじるような人とは、一緒にいられない。
あぁ、結婚って、難しいな。
いくら付き合っていても、その人の本性を見抜くのは簡単じゃない。
だから、大和に会うまではずっと、
『私は結婚しない。気ままに一人で生きていこう』と決めていた。今また、その原点に戻っただけのこと。
……、なのに。
なのに、まだ私は大和のことを考えてしまう。特に──部屋の中にある彼の私物を目にしたとき、気持ちが揺らぐ。
荷物を送り返そう。
そして、大和の部屋の鍵も──。
駅に着き、マンションまでの道を足早に歩く。確か冷蔵庫には、まだビールが残っていたはず。今夜はコンビニには寄らず、そのまま帰ろう。
鍵を開けて玄関を開けると、部屋の中には灯りがついていた。
「あれ……? また、電気、消し忘れた?」
そう呟いて、苦笑しながら廊下を進む。
キッチンとリビングのドアに近づいたとき、ふわりと香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「もしかして……、美愛ちゃん、何か作り置きしてくれたのかな?」
そんなことを思いながら、ふと考える。
──いや、でも、玄関に靴なんてあったっけ?
記憶が曖昧なまま、ドアに手をかけた。



