伊集院総合法律事務所、応接室。サクラスクエア側ビル七階──冷たい空調の効いた部屋の中で、ピリピリとした沈黙が張り詰めていた。
テーブルを挟み、工藤キラリとその両親。
そして向かいには、伊集院涼介と僕──烏丸大和が並んで座っていた。
涼介は一枚の書類を静かに置くと、無表情のまま口を開いた。
「本日はお越しいただきありがとうございます。本件に関して、すでにご確認いただいている通り、工藤キラリ様の行動には複数の重大な問題が存在します」
その声音に、慈悲はなかった。弁護士としてではなく──人としても、情を一切交えない冷ややかさ。
「まず、被害者の同意なく撮影された肖像のSNS投稿。これは、明確な肖像権の侵害に該当します。さらに、継続的な尾行、接近、投稿などの行為は、ストーカー行為等の規制等に関する法律に抵触する恐れがあります」
淡々と、だが一切の逃げ道を与えない語り口で、涼介は資料を並べながら説明を続ける。
「なお、これらの行為は今回が初めてではない。高校時代の前歴も考慮すれば、再犯性が高いと判断されても仕方がない状況です」
キラリの両親が小さく息を呑んだ。
彼女の過去──地方で起こしたストーカー騒動。示談で終わったものの、噂は瞬く間に広がり、一家は地元を離れることになった。
「この事実を、ご両親はご存じでしたか?」
問いかけられた父親は、顔を青ざめたまま、かすかに首を横に振る。母親の手は、キラリの背中をそっと撫でるようにしていたが、娘はその手を拒絶するかのように肩をすくめた。
「私たちは……、そんな……、何も聞かされていませんでした……」
それを聞いても、涼介の顔色は変わらない。
「知らなかった、では済まされません。
……、なお、今回、私の依頼人に対して、あなたが行った一連の行為は、著しい精神的苦痛と社会的損害を与えていることを、明確に認識していただきたい」
場の空気が、さらに数度下がる。
僕でさえ、涼介の冷徹な口調に背筋がひやりとするほどだった。
「……、丸大君の気持ちは……私、わかってます……。私たちは両思いです!」
沈黙を破ったのはキラリだった。
震える声で、僕をまっすぐに見つめながら、まるで真実を語るかのようにそう言い切った。
僕は絶句した。
どこをどう取ったら、そんな解釈になるのか──皆目見当がつかない。
「……、なるほど」
涼介は微かに目を細めた。
「では工藤様、確認いたします。あなたは、私の依頼人と個人的に交際関係にあったということを、法的に“明言”されますか?」
キラリは言葉に詰まった。
「申し上げておきますが、本日の話し合いは、すべて記録されています。あなたのその発言は、公的に『虚偽陳述』として扱われる可能性があります。くれぐれも、ご自身の言葉には責任を持ってください」
キラリの顔から血の気が引き、肩が震えた。
その場の誰もが、涼介の言葉の重みを痛感していた。
……、これが、“冷酷”と呼ばれる男の本領。
感情ではなく、法と事実だけを武器に、真実を切り裂いていく。
そして僕は──その冷たさに、救われていた。
テーブルを挟み、工藤キラリとその両親。
そして向かいには、伊集院涼介と僕──烏丸大和が並んで座っていた。
涼介は一枚の書類を静かに置くと、無表情のまま口を開いた。
「本日はお越しいただきありがとうございます。本件に関して、すでにご確認いただいている通り、工藤キラリ様の行動には複数の重大な問題が存在します」
その声音に、慈悲はなかった。弁護士としてではなく──人としても、情を一切交えない冷ややかさ。
「まず、被害者の同意なく撮影された肖像のSNS投稿。これは、明確な肖像権の侵害に該当します。さらに、継続的な尾行、接近、投稿などの行為は、ストーカー行為等の規制等に関する法律に抵触する恐れがあります」
淡々と、だが一切の逃げ道を与えない語り口で、涼介は資料を並べながら説明を続ける。
「なお、これらの行為は今回が初めてではない。高校時代の前歴も考慮すれば、再犯性が高いと判断されても仕方がない状況です」
キラリの両親が小さく息を呑んだ。
彼女の過去──地方で起こしたストーカー騒動。示談で終わったものの、噂は瞬く間に広がり、一家は地元を離れることになった。
「この事実を、ご両親はご存じでしたか?」
問いかけられた父親は、顔を青ざめたまま、かすかに首を横に振る。母親の手は、キラリの背中をそっと撫でるようにしていたが、娘はその手を拒絶するかのように肩をすくめた。
「私たちは……、そんな……、何も聞かされていませんでした……」
それを聞いても、涼介の顔色は変わらない。
「知らなかった、では済まされません。
……、なお、今回、私の依頼人に対して、あなたが行った一連の行為は、著しい精神的苦痛と社会的損害を与えていることを、明確に認識していただきたい」
場の空気が、さらに数度下がる。
僕でさえ、涼介の冷徹な口調に背筋がひやりとするほどだった。
「……、丸大君の気持ちは……私、わかってます……。私たちは両思いです!」
沈黙を破ったのはキラリだった。
震える声で、僕をまっすぐに見つめながら、まるで真実を語るかのようにそう言い切った。
僕は絶句した。
どこをどう取ったら、そんな解釈になるのか──皆目見当がつかない。
「……、なるほど」
涼介は微かに目を細めた。
「では工藤様、確認いたします。あなたは、私の依頼人と個人的に交際関係にあったということを、法的に“明言”されますか?」
キラリは言葉に詰まった。
「申し上げておきますが、本日の話し合いは、すべて記録されています。あなたのその発言は、公的に『虚偽陳述』として扱われる可能性があります。くれぐれも、ご自身の言葉には責任を持ってください」
キラリの顔から血の気が引き、肩が震えた。
その場の誰もが、涼介の言葉の重みを痛感していた。
……、これが、“冷酷”と呼ばれる男の本領。
感情ではなく、法と事実だけを武器に、真実を切り裂いていく。
そして僕は──その冷たさに、救われていた。



