葉子は、私が再び前を向けることができるようにと、デザインに専念できる体制をどう整えるかを真剣に考えてくれていた。
その間、美愛が、いつになく神妙な顔で口を開いた。
「あのね、副社長、最近あんまり笑ってないの。会社でもずっと忙しそうにしてて……。それを見かねた雅さんが、週に何回かうちに招待してるの。それでね、私が夕飯を作ると、いつも副社長、ちゃんと食べてくれるの。で、そのたびに圭衣ちゃんのこと、毎回聞かれるの。今、どうしてる? って」
少しでも私のことを気にかけてくれている──そう思っても、すぐに打ち消す自分がいる。ただの社交辞令かもしれない。お義兄さんの奥さんになる予定だった人への、気遣いの一言にすぎないのかも。
「それだけじゃないの……」
美愛はそっと視線を落としたまま、言いにくそうに続けた。
「ある日の会話、ちょっとだけ聞こえちゃったの。副社長がね、『あの女』とか『許さない』『潰してやる』って言ってて……。最後に、『もしあの女が彼女に何かしたら、地獄に落としてやる』って……」
「あの女……? 彼女……?」
私とキラリのことじゃないの? それとも、他にも女の影があるってこと? 彼には一体、何人の女性がいたの? 私は何番目だったの?──頭の中が混乱し始めたところで、葉子の声が飛んできた。
「ちょっと、またネガティブ妄想してるでしょ。いい加減にしなさいよ、長女さん」
溜め息交じりに苦笑する私をよそに、葉子は話を続けた。
「まずは会社のこと。あんた、たたむつもりだったみたいだけど、それはなし。デザインはアメリカでもできるって言うけど、国内の方が便利よ。直接会って話す仕事もあるしね。なにより──私も美愛も、あんたに行ってほしくないの」
……、2人とも、本当に私のことを思ってくれている。
「どうしても今の場所が辛いなら、引っ越すのも手だよ。北海道は寒いから却下として、南の方……、たとえば、九州とか。温暖だし、気分も変わるかも」
私は黙って聞いていたが、心の中で少しずつ考えが変わっていくのを感じていた。
「それと今後の作戦ね。あんたの情報を、仁たち慶智の王子にどこまで話すか、決めなきゃいけないでしょ。美愛、あんたは引き続き副社長の情報、ゲットしてきて。姉さまを泣かせた男は、あたしたちで成敗よ!」
そんなことを言いながら、小悪魔的な笑みでこくりと頷く美愛。──ちょっと、あなたそんな顔するんだ? 初めて見たよ。
気づけば、私は妹たちに救われていた。あんなに小さかった2人が、今ではこんなにも頼もしくて、優しい味方だなんて。今回は、彼女たちに素直に甘えてみよう。少しだけ、自分を預けてみようと思えた。
……、日本国内で、移住するなら──寒いのが苦手な私には、やっぱり九州がいいかもしれない。暖かくて、美味しいものもあって、新しい風を感じられるかもしれない。
ちょっとだけ前向きになれた気がした。
その間、美愛が、いつになく神妙な顔で口を開いた。
「あのね、副社長、最近あんまり笑ってないの。会社でもずっと忙しそうにしてて……。それを見かねた雅さんが、週に何回かうちに招待してるの。それでね、私が夕飯を作ると、いつも副社長、ちゃんと食べてくれるの。で、そのたびに圭衣ちゃんのこと、毎回聞かれるの。今、どうしてる? って」
少しでも私のことを気にかけてくれている──そう思っても、すぐに打ち消す自分がいる。ただの社交辞令かもしれない。お義兄さんの奥さんになる予定だった人への、気遣いの一言にすぎないのかも。
「それだけじゃないの……」
美愛はそっと視線を落としたまま、言いにくそうに続けた。
「ある日の会話、ちょっとだけ聞こえちゃったの。副社長がね、『あの女』とか『許さない』『潰してやる』って言ってて……。最後に、『もしあの女が彼女に何かしたら、地獄に落としてやる』って……」
「あの女……? 彼女……?」
私とキラリのことじゃないの? それとも、他にも女の影があるってこと? 彼には一体、何人の女性がいたの? 私は何番目だったの?──頭の中が混乱し始めたところで、葉子の声が飛んできた。
「ちょっと、またネガティブ妄想してるでしょ。いい加減にしなさいよ、長女さん」
溜め息交じりに苦笑する私をよそに、葉子は話を続けた。
「まずは会社のこと。あんた、たたむつもりだったみたいだけど、それはなし。デザインはアメリカでもできるって言うけど、国内の方が便利よ。直接会って話す仕事もあるしね。なにより──私も美愛も、あんたに行ってほしくないの」
……、2人とも、本当に私のことを思ってくれている。
「どうしても今の場所が辛いなら、引っ越すのも手だよ。北海道は寒いから却下として、南の方……、たとえば、九州とか。温暖だし、気分も変わるかも」
私は黙って聞いていたが、心の中で少しずつ考えが変わっていくのを感じていた。
「それと今後の作戦ね。あんたの情報を、仁たち慶智の王子にどこまで話すか、決めなきゃいけないでしょ。美愛、あんたは引き続き副社長の情報、ゲットしてきて。姉さまを泣かせた男は、あたしたちで成敗よ!」
そんなことを言いながら、小悪魔的な笑みでこくりと頷く美愛。──ちょっと、あなたそんな顔するんだ? 初めて見たよ。
気づけば、私は妹たちに救われていた。あんなに小さかった2人が、今ではこんなにも頼もしくて、優しい味方だなんて。今回は、彼女たちに素直に甘えてみよう。少しだけ、自分を預けてみようと思えた。
……、日本国内で、移住するなら──寒いのが苦手な私には、やっぱり九州がいいかもしれない。暖かくて、美味しいものもあって、新しい風を感じられるかもしれない。
ちょっとだけ前向きになれた気がした。



