「ちょ、ちょっと……、ふたりとも、何も思わないの? これ、見て」
思わず声を上げた私に、美愛が目を輝かせながら笑った。
「すごく素敵だよ、圭衣ちゃん。私、圭衣ちゃんが作るお洋服、大好きだもん。あのね、お人形の服と人間の服って、どっちが作るの難しいの?」
まるでピントがずれているような無邪気な質問に、私は思わず語気を強めた。
「美愛ちゃん、そういうことじゃなくて……。これ見て、引かない? アラサー間近の高身長の女が、ガーリーロリータファッションを好んで、ピーターズのお人形集めて、着せ替えてるんだよ……?」
自分の声が震えているのがわかる。笑って済ませられるような話じゃない。私は、ずっとこれを“秘密”として守ってきたのだから。
そんな私に、葉子が肩をすくめながら言った。
「圭衣、どうしてそう思うの? あたしたち、ずっと知ってたよ。あんたが可愛いものや服が好きなことくらい。なんにもおかしくないじゃん」
葉子の自然な言葉に、美愛も優しく頷いた。
「だって、実家のアルバムにある小さい頃の圭衣ちゃん、いつもフリフリの可愛い服着てたよ? それにね、父さまと母さま、よく言ってたの。“圭衣ちゃんには、たくさん我慢させた。可哀想なことをした”って」
その言葉に、私は息を呑んだ。
──両親は、気づいていたの?
三歳のころ。母さまが流産を経験して、空気が変わったあの家で。私は自分から「いい子」になろうとした。甘えず、泣かず、妹たちのために強くあろうとした。それは、誰にも見せてこなかった、私の“努力”だった。
……、でも、見ていてくれたの?
なら、どうして。母さまは、私にだけあんなに厳しかったの? どうして、小言ばかり……、私にだけ。
「まさか、これが……、あんたと大和さんの別れの原因じゃないよね?」
ふいに葉子が怒りを滲ませながら言った。
「こんなことで圭衣を否定するような男なんて──最初から一緒にならなくて正解だよ!」
私は言葉を返さなかった。
葉子が怒ってくれることが、少しだけ救いだった。でも、本当のことは……、まだ、言えていない。
葉子の怒りをなだめるように手を添えて、私は二人を再びリビングへと誘った。仕事部屋とクローゼットの鍵は──もう、かけない。
初めて誰かに見せた秘密のあと。私は少しだけ、心の鍵を緩めることができた気がした。
思わず声を上げた私に、美愛が目を輝かせながら笑った。
「すごく素敵だよ、圭衣ちゃん。私、圭衣ちゃんが作るお洋服、大好きだもん。あのね、お人形の服と人間の服って、どっちが作るの難しいの?」
まるでピントがずれているような無邪気な質問に、私は思わず語気を強めた。
「美愛ちゃん、そういうことじゃなくて……。これ見て、引かない? アラサー間近の高身長の女が、ガーリーロリータファッションを好んで、ピーターズのお人形集めて、着せ替えてるんだよ……?」
自分の声が震えているのがわかる。笑って済ませられるような話じゃない。私は、ずっとこれを“秘密”として守ってきたのだから。
そんな私に、葉子が肩をすくめながら言った。
「圭衣、どうしてそう思うの? あたしたち、ずっと知ってたよ。あんたが可愛いものや服が好きなことくらい。なんにもおかしくないじゃん」
葉子の自然な言葉に、美愛も優しく頷いた。
「だって、実家のアルバムにある小さい頃の圭衣ちゃん、いつもフリフリの可愛い服着てたよ? それにね、父さまと母さま、よく言ってたの。“圭衣ちゃんには、たくさん我慢させた。可哀想なことをした”って」
その言葉に、私は息を呑んだ。
──両親は、気づいていたの?
三歳のころ。母さまが流産を経験して、空気が変わったあの家で。私は自分から「いい子」になろうとした。甘えず、泣かず、妹たちのために強くあろうとした。それは、誰にも見せてこなかった、私の“努力”だった。
……、でも、見ていてくれたの?
なら、どうして。母さまは、私にだけあんなに厳しかったの? どうして、小言ばかり……、私にだけ。
「まさか、これが……、あんたと大和さんの別れの原因じゃないよね?」
ふいに葉子が怒りを滲ませながら言った。
「こんなことで圭衣を否定するような男なんて──最初から一緒にならなくて正解だよ!」
私は言葉を返さなかった。
葉子が怒ってくれることが、少しだけ救いだった。でも、本当のことは……、まだ、言えていない。
葉子の怒りをなだめるように手を添えて、私は二人を再びリビングへと誘った。仕事部屋とクローゼットの鍵は──もう、かけない。
初めて誰かに見せた秘密のあと。私は少しだけ、心の鍵を緩めることができた気がした。



