何も解決しないまま、気づけば十日が過ぎていた。
胸の奥には、重たい迷いが残ったまま。自分の気持ちに整理がつかず、言葉にすることもできない。
けれど──ひとりで抱えていても、前には進めない。
そう思った私は、先日、副社長であり妹でもある葉子にメッセージを送った。
『会社で、少し話せる時間ある?』
すぐに返ってきた返信は、彼女らしく簡潔だった。
『水曜日に、そっち行くね』
その文字を見つめながら、私は小さく息を吐いた。
忙しいはずの葉子が、わざわざ来てくれるなんて……。胸の奥に、申し訳なさと感謝が同時にこみ上げてきた。
でも、これは彼女にとっても他人事じゃない。だからこそ、私はこの件を一人で抱え込むのをやめたのだ。
そして迎えた水曜日。社長室を兼ねたデザイン室のドアが、控えめにノックされた。
「……、どうぞ」
私の声に応えるように、扉の隙間からひょこっと顔を出したのは──
久しぶりに見る、懐かしい笑顔だった。
妻となり、母となった葉子は、まるで太陽のように眩しかった。愛する人に愛され、双子の子どもたちに恵まれて──
きっと、彼女は今、幸せの真ん中にいる。
「圭衣、ごめんね。なかなか出社できなくて」
「こっちこそ。忙しいのに、来てくれてありがとう」
穏やかなやり取りのあと、葉子は真剣な表情に切り替えた。
「とっとと本題に入ろう。圭衣、一体何があったのさ?」
いきなり核心を突かれて、私は言葉を失った。けれど彼女は構わず、さらに畳みかけてくる。
「大和さんと、何かあったでしょ? バーベキューにも来なかったし。あたしも美愛も、“仕事が忙しい”なんて、言い訳だってわかってる。実はさ、大和さんに聞かれたんだよ。あんたのこと」
「……、なんで私のことなんて、聞いてくるのよ」
精一杯取り繕ったつもりだったのに、葉子はあっさりと見抜いていた。
「“私のことなんて”って言う時点で、完全にバレバレだからね」
少し呆れたように笑いながら、彼女は続けた。
「美愛も言ってたよ。電話越しのあんたの声、すっごく悲しそうだったって」
「……、何があっても、あたしたちは圭衣の味方だよ。そこ、絶対忘れないでよね」
──バーベキューの日、私が来なかったことに気づいた大和が、葉子にそっと尋ねてきたという。
葉子は「仕事が忙しいだけ」とだけ伝えたけれど、そのときの彼の表情は、いつもの朗らかなものではなかったらしい。
きっと……、私に会いたくなかったんだ。
そう思うと、胸がぎゅっと締めつけられる。
あの陽気で、お調子者で、人懐っこい彼が──まるで別人のように、沈んだ表情を浮かべていたなんて。
どこですれ違ってしまったのだろう。
どこから、何を……、間違えてしまったの?
胸の奥には、重たい迷いが残ったまま。自分の気持ちに整理がつかず、言葉にすることもできない。
けれど──ひとりで抱えていても、前には進めない。
そう思った私は、先日、副社長であり妹でもある葉子にメッセージを送った。
『会社で、少し話せる時間ある?』
すぐに返ってきた返信は、彼女らしく簡潔だった。
『水曜日に、そっち行くね』
その文字を見つめながら、私は小さく息を吐いた。
忙しいはずの葉子が、わざわざ来てくれるなんて……。胸の奥に、申し訳なさと感謝が同時にこみ上げてきた。
でも、これは彼女にとっても他人事じゃない。だからこそ、私はこの件を一人で抱え込むのをやめたのだ。
そして迎えた水曜日。社長室を兼ねたデザイン室のドアが、控えめにノックされた。
「……、どうぞ」
私の声に応えるように、扉の隙間からひょこっと顔を出したのは──
久しぶりに見る、懐かしい笑顔だった。
妻となり、母となった葉子は、まるで太陽のように眩しかった。愛する人に愛され、双子の子どもたちに恵まれて──
きっと、彼女は今、幸せの真ん中にいる。
「圭衣、ごめんね。なかなか出社できなくて」
「こっちこそ。忙しいのに、来てくれてありがとう」
穏やかなやり取りのあと、葉子は真剣な表情に切り替えた。
「とっとと本題に入ろう。圭衣、一体何があったのさ?」
いきなり核心を突かれて、私は言葉を失った。けれど彼女は構わず、さらに畳みかけてくる。
「大和さんと、何かあったでしょ? バーベキューにも来なかったし。あたしも美愛も、“仕事が忙しい”なんて、言い訳だってわかってる。実はさ、大和さんに聞かれたんだよ。あんたのこと」
「……、なんで私のことなんて、聞いてくるのよ」
精一杯取り繕ったつもりだったのに、葉子はあっさりと見抜いていた。
「“私のことなんて”って言う時点で、完全にバレバレだからね」
少し呆れたように笑いながら、彼女は続けた。
「美愛も言ってたよ。電話越しのあんたの声、すっごく悲しそうだったって」
「……、何があっても、あたしたちは圭衣の味方だよ。そこ、絶対忘れないでよね」
──バーベキューの日、私が来なかったことに気づいた大和が、葉子にそっと尋ねてきたという。
葉子は「仕事が忙しいだけ」とだけ伝えたけれど、そのときの彼の表情は、いつもの朗らかなものではなかったらしい。
きっと……、私に会いたくなかったんだ。
そう思うと、胸がぎゅっと締めつけられる。
あの陽気で、お調子者で、人懐っこい彼が──まるで別人のように、沈んだ表情を浮かべていたなんて。
どこですれ違ってしまったのだろう。
どこから、何を……、間違えてしまったの?



