婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語



コンビニに立ち寄って、ようやくマンションに帰り着いたのは、すでに夜の十時を少し過ぎていた。買ってきた袋をリビングのコーヒーテーブルにぽんと置き、そのままキッチンへ向かう。


手を洗い、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
ジャケットを無造作にソファへ放り投げて、床に片膝を立てて座り込むと、先ほどコンビニで買った焼き鳥にかぶりついた。テレビは、電源だけつけたまま。内容も見ていないが、今の私にはBGMとしては十分だ。


こんな姿、母さまが見たらきっとカミナリを落とされるに違いない。


──でも、金曜日の夜に飲むビールと焼き鳥は、最高のご褒美だ。


「今週もよく頑張ったよ、私……」


思わず、独り言が漏れる。でもそのあと、ふと浮かぶのは仕事のこと、そして大和のこと。


どうしたらいいんだろう……。





昨年、事業拡大の波に乗った直後、会社の副社長であり妹の葉子が妊娠──そして逃亡、出産という怒涛の展開を迎えた。そのタイミングで彼女はリモートワークに切り替え、結果として私が営業も兼任することになった。


しかもその担当が、よりによって「慶智の王子たち」関係の超VIP顧客。


デザインだけに集中できていた頃と比べて、今はてんてこ舞いの毎日だ。経営そのものは葉子に任せたままではあるけれど、今になってようやく、彼女の存在がどれほど大きかったのかを痛感している。


Cool Beauty。
これが、私がアメリカで立ち上げたアパレルブランド。ターゲットは20〜30代の働く女性。洗練されたスタイルに、さりげない可愛らしさを取り入れた、プチプラより少し上質なラインナップを揃えている。


今では、メンズアパレルやウェディング衣装、企業ユニフォームの受注もこなすまでに成長した。


社員も増え、知名度もそれなりに上がったなかで、私は一昨年、ある理由からビジネスの基盤を日本に移した。


妹・美愛ちゃんが日本にいたというのも、理由のひとつだったけれど──
一番は、他でもない私自身のため。


誰も知らないこの場所で、誰にも干渉されないプライベートな時間を過ごしたかったからだ。


本当の私は、誰にも見せられない“秘密”を抱えていたから。