婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

その週末、本当は行かなくてもよかったのだ。それなのに、私はなぜか銀座のとある喫茶店へと足を向けていた。


目的は……キラリの“偵察”。


そんな名目を口実にしてはいたけれど、実際のところ、自分でもよくわかっていなかった。キラリのことを調べる理由なんて、もうとっくになくなっているはず。それでも、気づけば私は、彼女が通っているという銀座のカフェに向かっていた。


──今さら、何してるんだろう、私。


彼女と大和がどうなっていようと、もう私には関係のないこと。そのはずなのに、心はざわついたまま、言い訳のように重ね着をして家を出た。





カフェパリス──
そこは銀座でも知る人ぞ知る、老舗の喫茶店だった。


赤いクッションの椅子に白いテーブルクロス、店内には年季の入ったアンティーク家具が並び、静かにモーツァルトが流れている。
1階にはカウンター席とテーブルが数席、2階にはソファ席と四人掛けのテーブルが整然と配置されていた。テーブルの間隔はやや狭く、それがまた、この空間の“濃密さ”を際立たせている。


午後一時すぎ。予定どおり、キラリは店に現れた。私は、彼女の姿が視界の端に入る程度の、斜め前の席に案内される。


彼女はメニューを開き、落ち着いた所作でページをめくっていた。私はというと、サンドイッチとブレンドを注文し、鞄から小さなスケッチブックと鉛筆を取り出して、テーブルの上にそっと置く。


もちろん、彼女をじっと見つめるような無粋な真似はしない。あくまで自然に──を装って。


窓際の席には、柔らかな日差しが射し込んでいた。


その穏やかな光の中、キラリはゆったりとした動作でナポリタンを食べながら、本を読んでいた。


注文から退店まで、実に一時間半。そのあいだ、彼女はスマホに触れることもなく、終始静かに読書をしていた。


ウェイトレスに声をかけるときも、意外なほど穏やかな口調だった。先週末に見かけた、キンキン声で騒いでいた彼女とはまるで別人のよう。


──あれ?


私は、ほんの少し拍子抜けしていた。


自分が想像していた“キラリ像”とは、どうにも重ならなかった。なんだか、期待していた“悪女”の姿は、そこにはなかった気がして……


それが、妙に居心地悪く感じられたのだった。