婿入り希望の御曹司様とCool Beautyな彼女の結婚攻防戦〜長女圭衣の誰にも言えない3つの秘密〜花村三姉妹 圭衣と大和の物語

週末、私はキラリの行きつけのカフェへ偵察に行くことにした。彼女の素顔──ILP以外での姿を、どうしても見ておきたかった。


そのため、大和から誘われたドライブ旅行も断ってしまった。今は彼女の情報を集めることのほうが優先事項。……、だったはずなのに。
 




その夜、いつものように彼が私のマンションに来て、夕食を共にした。食後のコーヒーを淹れ終えたタイミングで、彼がぽつりと言った。
 

「圭衣ちゃん、週末にさ、ちょっと遠出しない? 日帰りでもいい。ドライブがてら、旅行とか……。最近、ちゃんと2人で過ごせてないし」


一瞬、間があいた。だけど、心が揺れたわけじゃない。正直、今はそんな余裕ない。大和の言葉を『またか』と思ってしまった自分に、少しだけ嫌気がさす。
 

「行きたいのは山々なんだけど、今週末は無理。仕事が立て込んでて……、ごめんね」
 

口調はできるだけ柔らかくしたつもりだったけれど、本心は別。『今はそれどころじゃないの』という苛立ちが、声ににじんでいたかもしれない。


大和が何か言いかけたとき、『また言い訳って思われるだろうな』なんて、どこか冷めた自分がいた。
 

──証拠を掴まないと。今週末の動きがカギなんだから。


キラリの発言や行動が事実かどうかを見極めるには、私自身の目で確かめるしかない。
私の中で、完全に優先順位が決まっていた。


そのときの彼の顔が、わずかに曇った気がした。
 

「……、ねえ、僕のこと避けてない?」
 

思わず、はっとして彼の顔を見つめる。
 

「圭衣ちゃん、最近ずっと、僕に対してよそよそしいの、わかってるよね?……、そんなに一緒にいるのが嫌なら……」
 
「違う、大和。そんなことないよ。本当に……」
 
「圭衣ちゃんって、いつもそう。言い訳ばかりだよね。プロポーズのことだって、僕、ずっと待ってたんだよ? 葉子ちゃんと美愛ちゃんの結婚が落ち着いたら、って。今度は“仕事”? じゃあ次は何?」
 

声のトーンは静かなのに、言葉は鋭くて、胸に刺さった。
 

「……、もう、いいよ」
 
「大和!」
 

私の呼び止める声が届いているのはわかっていた。

けれど、彼は一度も振り返らずに、玄関のドアを開けて出ていった。静かに、けれど確かに、去っていった。
 

大和が、私に対して怒りをあらわにしたのは、これが初めてだった。怒鳴ったわけでもなく、物にあたることもなかった。


でも、彼の沈黙が、何よりも強く私を責めていた。
 

どうして、こうなってしまったんだろう。
 




それから私は、何度も彼にメッセージを送り、電話をかけた。けれど、彼からの返事はなかった。既読すらつかなくなった三日目、私はようやく、すべてを諦めた。
 

……、自分が、蒔いた種だ。


そう認めるしかなかった。大和が言ったことは、全部正しい。私は、何かに理由をつけて、いつも答えを先延ばしにしていた。


三つの秘密を打ち明ける勇気がなかっただけ。ピーターズファミリーのこと。ガーリーロリータファッションの趣味。


そして──両親の戸籍から、分籍したいと思っていること。
 

そんなこと、彼は何も知らない。何も知らずに、それでも私を信じて、ずっと待ち続けてくれていた。一言も文句を言わずに。
 

でも、もう限界だったんだろう。
当然だ。……、私が、大和を突き放してきたんだから。
 

彼との関係は、これで終わった。

そう、自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
 

けれど──
胸の奥で、チクリと刺さるような痛みが、消えてはくれなかった。